彼女を端的かつ的確に表すなら、『天真爛漫』だと皆が口を揃えて言うだろう。
名前は”天王寺 真子(てんのうじ まこ)”。
俺と同い年で、いわゆる幼馴染になる。
かれこれ幼稚園からの仲になるが、とにかく彼女は特殊だった。
何をやるか分からない問題児――というほどではないにしろ、節々に変わった点を持っている。
「おはよう、信司(しんじ)」
ぼさっとして癖の付いた長い黒髪に、実年齢より遥かに幼く見える顔立ちと体型。前の身体測定ではたしか、身長141cm、体重34kgと測定用紙に書いてあった(本人はその日のことなのに憶えていなかった)。
少し丈のずれた大きめのブレザー(買い替えるときに書くサイズを間違えたらしい)をなんとか着ているような感じだ。
さらによく見るとブレザーのボタンは取れかけで、スカートには皺がよっているし、靴下の種類も柄も左右でバラバラである。
制服ですらこれなので、私服を含めファッションには興味がないのは自明の理だ。
「……おはよう。珍しいな、俺の家の前で待ってるなんて」
「そうかな?」
「昨日もその前もその前も、俺がお前の家まで迎えに行っただろ」
「今日以外のことはあんまり憶えてない。いらないかなー、って思うし」
「……じゃあ、なんで今日は俺を待ってたんだ?」
「んー、そうだなあ」
真子は無表情のまま、僅かに雲の浮かぶ空を見上げる。
真剣に何かを考えているようにも見えるし、一切何も考えていないようにも見える。
”行動と思考は一致しない”と彼女は言っていた。
「まあいい、そろそろ行こう」
「学校に?」
「今中学生の俺らが、他にどこへ行くんだよ。しかも受験シーズン真っ盛りだってのに」
「他に行きたいところはない?」
「なくもないけど、今は学校へ行くべきだ」
「信司が行くって言うなら、ついてくよ」
と、朝の会話がいつもこんな調子だ。
昔と比べればかなりマシにはなったのだが、今でも掴み所がないのは変わらない。
中学校へ登校する道すがらも、彼女は色々と話しかけてくる。
「そーだ。夢を見たんだよ、すっごく綺麗な女の人が出てきたの。アイドルとか女優とか、そんなのじゃなくて、もう人間じゃないぐらい綺麗なの」
「へえ」
「それで見惚れてたら、その女の人がね、私に何か言ってたの。よくわかんないけど、『私のようになりたい?』って感じの事だったかな。
でもってすぐに私がうんってうなずいたら、笑いながら離れていっちゃうの。『きみはもう、なってるの。すこしずつわかるよ』みたいな事を言いながらね」
矢継ぎ早な言葉を聞きながら、相槌を返す。
「変な夢だな。それにお前にもそんな変身願望があったのが驚きだ」
「んー、なーんかその時はそう思っちゃったんだよ。そういうことって夢だとよくあるでしょ」
「それはまあ、そうだな」
「あとはね、『その想いを大事にしなさい』とかも言ってたかな。これはよくわからなかったけど……あ、クロネコ。ついて行ってもいい?」
「置いてくぞ」
しぶしぶ、といった感じで彼女はまた俺の横について歩き出す。
彼女はそれこそ猫のように、自由で、不思議で。
目を離すと本当にどこかに行ってしまいそうだった。
――――――――――――――――――――――――――――ー
俺が真子を知ったのは幼稚園に入って少し経ってからだ。
その頃から親交はずっと続いているわけだが、出会った頃の真子は『普通の』女の子だったと、おぼろげながらも俺は記憶している。
まあ、その年の子供で『常識的な子』なんてまずいない。まだそれを学ぶ段階だ。
女の子の遊びもするし、男の子の遊びもする。運動は苦手だと本人は言うが、遊びに関してはそうでもなさそうだった。
彼女の様子が変わったのは、小学四年生の頃になる。
お互い家族ぐるみで付き合いのあった俺と真子は、真子の祖母の葬式に出席した。
俺でも知っているぐらい、かなりのおばあちゃんっ子だった真子は、葬式の最中、別人のように静かだった。泣くことも笑うこともない、ただひたすらに無表情だった。
考えても考えても、真子に掛ける言葉が見つからなくて、顔も会わせられなかった。
それから真子は式のあと何日か学校を休んで、数日後。
朝、登校前の出会いがしらのこと。
「しんじ」
「おはよ……ん?」
真子は風変りではあったものの、親しい人間には挨拶を欠かさない子だった。
でもその時はわざわざ俺の家の前まで来て立っていて、俺を見つけるとすぐに駆け寄りながら、こう聞いてきたのだ。
「どうして、ひとは死ぬのかな」
「え?」
「おばあちゃん、びょういんで『死にたくない』って言ってた。なんどもなんども言ってた。
わたしが大きくなるまで、ずっと生きてたいっ
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