僕は一つ目の魔物――ゲイザーである彼女と、互いの唇を味わうようにキスをする。
一方的に貪られるような口づけからは脱却できたが、愛撫が終わる頃にはいつものように彼女が主導権を握るだろう、と思った。
綺麗なシーツのように白い肌と、幼子みたいに細いのに柔らかな肢体は圧倒的な手触りだ。
しなやかな彼女の黒い指で性感帯をなぞられると、電気が走ったみたいに快楽が走る。
「へへっ、オマエのココ、もうこんなにカタくなってるじゃねえか。
たまには焦らしてやりてェけど、こっちももうガマンできなくてよっ……
#9829;。
今日も意識が飛ぶまで、アタシ以外をぜーんぶ忘れるぐらいに愛してやる
#9829;」
結局の所、主導権なんてどうでもいい。
どちらかが先に愛した分、また愛し返されるのだから。
そう思いながら、僕は今日も彼女に搾り取られる。
いつまでも慣れる事のない暴力的な快感とともに、僕を包みこんでくれるのだ。
「アタシが孕んで、オマエの子を産んで育てて。
そんでその後も、その後も、その後も、その繰り返しだ。
最後まで――付き合ってくれるよな」
―――――――――――――――――――――――――――――――
賑わいを見せる大通りからは少し離れた、小さな本屋。
ここは小規模ながらに小奇麗だし、本の種類も扱い方も申し分ない。
喧しくもなく、人の出入りもそう多くなく、本を物色するのにはうってつけな場所だ。
冒頭の部分だけを覗いて、気に入ったものがあれば買って帰る。読み終わればすぐに売る。
いつものように僕は、そういう方法で本を探していた。
今手に取った黒い装丁の本をぱらぱらと読んでみるが、出だしの展開が少し遅い。こういう本は判断するのに迷ってしまう。
一度本を閉じ、棚に戻すべきか、買っていくかを悩んでいると、
「それ、面白いぜ」
という声が聞こえた。少し低い声だが、少女らしきものだった。
横にいたのは、目深に黒いフードを被って顔を隠した誰か。背丈はちょうど僕の目線の高さぐらい。肌のほとんど見えない黒の外套に、黒い手袋、黒い靴下。音の鳴りにくそうな革靴。ほとんど黒ずくめだ。
こんなにあからさまに怪しい外見なのに、彼女からは敵意も警戒も感じられない。
仕事柄、そういう物には敏感なつもりだが、それでも何も感じないのだ。
「どこまで読めばいい?」
僕は彼女に返答してみる。
「二章から、本当の意味で物語が始まる。そこまでは読まないと損だ」
それは一見落ち着いているが、どこか興味を抑えられないような声だった。
口ぶりからして、彼女はこの本を読んだことがあるのだろう。
確証などあるはずもないが、疑うこともしない。
「じゃあ、読んでみる」
そう言って、僕は他のものと一緒に手持ちの本を店主へ持って行く。
滞りなく取り引きが終わってから、僕は少女がいたであろう場所へ視線を向ける。
しかしそこにはもう誰もおらず、木製の玄関扉の閉まる音だけが聞こえた。
三日後。
買った本を読み終えた僕は、この前と同じ店に来ていた。売却もここで行えるからだ。
店に入ると、店主よりも先にあの黒いフードを被った少女が目に入る。
少し迷ったが、僕は件の少女に近づいて、この前買った黒い本を見せながら言った。
「ありがとう。この本はとても面白かった」
フードの少女はやはり顔を隠したまま、こちらを向いて答える。
「だろ?」
フードから覗く少女の口元は笑っていた。
それで思わず、その本の感想まで口にしてしまう。
「ああ。聞いた事のない作者だから迷っていたけど、一人一人の考えや行動の書き方が丁寧で、主人公の人柄が特に印象的だった。
それでいて、複雑な人間関係を分かりやすく書いている。
二章が本当の始まりだと言われたけど、それさえも前座だったのには驚いた」
「あまり売れ行きが良くない本だからな、掴みが弱いのは明らかな欠点だ。
しかしそれも覆すぐらいの展開が待っている。裏切られた気分だろ」
「良い意味でね。……ところで、君は本には詳しいようだけど」
「詳しいって程じゃない。他のヤツより読んでる時間がちょっと多いだけだ」
謙遜するようにまた笑うと、特徴的なぎざついた歯がちらりと見えた。
「じゃあこの店で、他にオススメできる本を教えてくれないか」
「……そんなモン、どうしたってアタシの好みになるが、いいのか?」
「経験は狭量かもしれないけど、嘘はつかない。当てもなく探すよりはよっぽどいい」
なるほどな、と言って少女はくつくつと笑った。
一度溜まった本を売却してから、フードの少女と会話を交わす。
彼女はその小さい外見からは想像できないほど、本について詳しく、
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