「おっ、爆乳さん今日もオンラインだ。ちょうどいい、今回も誘うか」
自宅である単身者用アパートで、俺はPCの前のゲーミングチェアーに座ってキーボードを叩いていた。
実家を出て就職して三年、仕事はなんとかこなしている日々だが、会社の人たちとはあまり趣味が合わず、気が置けない関係という相手はまだいない。実家にいた頃の友人とも疎遠になってしまった。
だが、最近はコミュニケーションソフトにSNS、マッチングアプリなどが多くあるらしく、自分と合った相手を捜すためのコミュニティは驚くほど多い。
試すつもりで俺はマンティコードというボイス&テキストチャットツールをPCに導入して、同じ趣味の相手がいそうなサーバーに入ってみた。
そこで出会って特に仲良くなったのが、爆乳さん(もちろんハンドルネーム)である。
『爆乳さん今暇です?』
『アンノウン兄貴オッスオッス、どうしたん?』
『TRPGやりましょうよ、いいシナリオあるんです』
『あ〜^いいっすね〜 僕のkawaiiロールみとけよみとけよ〜』
とまあ、いわゆるネット用語というか、ネットスラングを使いまくる節がある。あとはアニメとか漫画のパロディネタも多い。
付き合いやノリはいいし、頭も回るしそれなりに気も遣ってくれる人なのだが、初見ではかなり誤解されやすい。
おまけにハンドルネームの正式名称が”爆乳戦隊☆パイブラジャー”という品性をフリマアプリで叩き売りしてきたような名前なので、さらに誤解に拍車をかけている。
『女性キャラでも男性キャラでもOKですけど、今回も女の子ですか?』
『モチのロンよ、こう見えて爆乳さんじゅうななさいだから』
『おいおいおい』
『死ぬわアイツ そんで今回は僕のソロシナリオ?』
『三人まではOKですよ 誰か誘います?』
『いやいいよ、タイマン張らせてもらうぜ!』
『テキストセッションとボイスセッションどっちがいいです?』
『美声すぎて惚れさせたらアレだし いつもどおりテキストチャットで頼むお☆』
『ないわー』
ここまでの言動は一見アレだけど、実際は優しい人である。
俺が以前仕事でヘマをした時も、慰めてくれた上に的確なアドバイスまでくれた。それに遅くまで一緒に遊んでいた時は必ず気遣ってくれる。
交流はゲームやチャットの雑談、それも通話はせず、テキストでの会話だけとはいえ、交友関係は半年ほど続いていた。
『いやあ……ラスボスのドラゴンさんは強敵でしたね』
『じゃあこれにてシナリオ終了!爆乳さんお疲れさまでーす。
今日も美少女ロール冴え渡ってましたね』
『ほんとぉ?スイーツ(笑)っぽくなかった?』
『いやー、見てる雑誌も化粧品のこだわりもちゃんと女の子っぽかったですからね。
女性目線にきっちり立ててるっていうか』
この辺りから何故か爆乳さんの返信が妙に遅くなった。
たしか在宅業と言ってたし、仕事の電話でもかかってきたのだろう。
『そりゃまあ……フクザツな乙女心を知り尽くしてますしおすし』
『ちょっと返事遅くなってましたけど、また仕事ですか?忙しいなら早めに切り上げますけど』
『え あーいや、大丈夫だよ 大したことじゃないから』
『そういや爆乳さんって結局何の仕事してるんですか?』
『こう見えても拙者ハッカーでござるのでwwwコポォwwwハッキングもお手の物でござるwww』
『スーパーハカーだったとは……やはり天才か』
『スーパーハッカーだろ、常考』
『ていうかハッキングって犯罪じゃ……』
『いや拙者は犯罪者ではござらんのでwwwそれはクラッカーとかクラッキングっていうんでござるwwwフォカヌポゥwww』
『まえに在宅って言ってましたけど、フリーランスってことですか』
『そうだお!アプリとかソフトも作れるし、ソフトウェア関係なら色々やってるお!』
やっぱり結構凄い人だったんだな、と改めて思う。
ごく一般的なサラリマンの俺とはやはり違うようだ。
『俺もK県の都会?で働いてますけど、そういう手に職持ててるのは尊敬しますよ』
『あれ、アンノウン兄貴K県在住だったの?東京生まれHIPHOP育ちかと』
『いや、悪そうな奴は大体友達じゃないんで』
『じつは僕もK県だお。都会っていうなら、たぶん同じ市の』
俺が住んでいるK県は地方だから、都会と言っても主要都市と比べればかなり小さいし、いくつもある場所ではない。
ということは、爆乳さんもK県の県庁所在地あたりに住んでいるのだろう。
『それならせっかくだし、オフ会でもどうです』
『え』
『その、いつも仲良くしてもらってるし、一度くらい酒でも飲んでみたいなーって』
また返信が遅くなる。とはいえ、可否や文面で迷うのは当たり前だろう。
いくらネットが普及しているとはいえ、テキストでしか
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