日が暮れかけた帰り道、人通りの少ない閑静な住宅街、アスファルトの道路の上。
”ひろってください”と書かれた段ボールの中。
普通なら入っているのは子猫か子犬と相場が決まっているものだ。だが――
「ケロケロ〜」
そこにいたのは、模様の入った緑色の肌をした、まさしくカエルのような人型の少女。座り方もまるでカエルで、太ももが大きい。頭からはショートの緑髪が生えているし、姿形こそ人間に近いものの、身体中が粘液のようなものに塗れている。それに舌も人より数倍長く、れろれろと伸ばしたり引っ込めたりしている。
背は僕より少し低く幼い顔つきで、魔物のようなので正確には分からないが年の頃は、人間で言えば十代後半ぐらいだろうか。ただ、胸部はその童顔に似合わないほど大きい。
水場でもないのにスクール水着のようなものを着ているが、これは粘液のせいで普通の服が着れないからだろう。
時おり特徴的な鳴き声を上げては、数少ない道行く人を見つめている。
「なんだろう……見たことないな、あんな魔物」
僕は一人ごちながらスマートフォンでこっそり写真を撮り、魔物に異常なほど詳しい友人に聞いてみる。
ちょうど暇だったのかすぐに返事が返ってきて、彼女は「ミューカストード」という魔物娘だと教えてくれた。
普通は水辺や湿地帯に住む、見た目通りカエルのような魔物で、人里に出てくるのは珍しいとのこと。
――というか、本能に赴く好色さ故に危険な魔物なので、独り身の個体は県でも認可されていないらしい。
「ゲロ〜……ふぁ〜あ。匂いはするのになあ」
カエル少女があくびのような動きをする。
周りには彼女の夫らしき男性はおらず、しかし彼女が道行く人に襲いかかる気配もない。
危険だとは分かっていたが、僕は興味を抑えきれず彼女に近づいた。
「ケロケ……はっ!イイ匂い……!」
僕に気付くと、カエル少女はこれ見よがしに舌を伸ばす。表情もどこかぼんやりとしている。
上から下まで彼女を眺めてみると、人間とは違った姿形にますます興味が湧いてくる。
「ケロロ〜、そんなにじっくり見られると恥ずかしいですケロね」
じろっとした僕の視線に気づいた彼女は、少し照れた声で喋りかけてきた。
「君は……えと、こんな所で何を?」
「ケロ!モチロン、ご主人様探しですケロ〜」
彼女の舌の先端が『ひろってください』と書かれた紙を指す。舌に関しては思った以上に伸びるし、本物の蛙よりも自由自在のようだ。
「どうしてこんな所で?」
「だって、山の中にいてもニンゲンさん来てくれないんですケロ……」
「でもここだと、そんなに人通りも多くないと思うけど……」
「う〜ん、あんまり人が多いとすぐに通報されちゃうんですケロよ。
ワタシたち、なんか危険な魔物扱いされてるせいで、あんまり出歩けなくて……ゲロッ」
「なるほど……でもその割に君は、そんな感じじゃないね」
「ワタシは独自に色々勉強して、忍耐と好かれるための技術を覚えたんですケロ。
たとえば、人気のあるカエルさんのキャラを真似してみたり……。
どこまでもいっしょとか、ゲロゲロ軍曹とか、根性カエルとか……色々見て回りましたケロ〜」
おそらく勉強の成果は、その特徴的な語尾に現れているのだろう。
「じゃあ、男の人を無理矢理襲ったりはしないと?」
「まあ昔ならいざ知らず、現代ではそんな事する子はほとんどいませんですケロよ。
こっちのセカイに来れるようになってからは、オトコ不足も多少は解消されましたから。
もっとも……」
「?」
「気に入ったオトコの人なら……分かりませんですケロねぇ〜……♪」
ぺろり、と見せつけるように舌なめずりをするカエル少女。
その姿は人外らしさが強調され、どこか妖艶さを感じさせる。
「あ……ぼく、もう彼女がい、いるから。
じゃ……じゃあ僕はこれで……」
長く話していると危険な予感がして、僕は話を切り上げて離れようとした。
が、
「ケロケロっ!ちゅおっとお待ちくださいケロよぉ〜」
しゅぱっと伸びてきた彼女の舌が、僕の胴体に強く巻かれる。
締め付けは痛みこそないが非常に強く、身体が浮いてしまいそうなほどだ。
そのまま伸び続ける彼女の舌の先っぽが、僕の頬をぺろりと舐めてくる。
ぬめぬめした舌に舐められる感覚で、背筋がゾクっとしてしまう。
「むっ……この味は、『ウソ』をついている味だぜ……ケロ。
ホントはまだ誰のお手付きでもないんでしょう?
それなら……そう簡単には逃がせないですケロっ」
「お、襲ったりはしないってさっき言ったじゃないか」
「ゲロッ……まあまあ、そう邪見にしないでくださいケロ。
せっかくなんですから、ワタシと暮らしてみませんか、ケロ〜?」
「ええっ?」
「
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