休日。
いつもなら二人で居られる時間を大事にしようと、一緒に家にいることが多い。
でもその日は珍しく、彼女が一人だけで出掛けて行った。
どこに行くのかを聞いても教えてはくれず、
「きししっ、ヒミツに決まってんだろ」
と言うばかり。
また悪い事でも考えているのかと僕も訝しんだものの、特に詮索することはなかった。
夕方になって、僕が気付かないうちにいつの間にか彼女は家に帰ってきていた。
もちろん何をしてきたのかは教えてくれない。
僕と彼女は一緒に料理を作ったあと、テーブルに向かい合って座る。
そしていつものように一礼をして、二人一緒に食べ始める。
「そういえば……料理、だいぶ上手になったよね。
もう一人だけでも色々作れるんじゃない?」
「おいおい、アタシだけに面倒を押し付ける気かよ?
せっかく二人で居る日なのに一人寂しくメシを作るなんて、アタシはもうごめんだぞ」
「ああいや、そういうつもりじゃなかったんだ。
でも、君の手料理が食べれるのは嬉しいよ」
「前にも作ってやっただろ?まああん時のは覚えたてだったし、まだまだだったけど……」
「あれも美味しかったよ。でも、早く帰れなかったのが心残りだったな」
そんな他愛もない話をしながら、ご飯を食べる。
二人でごちそうさまをして、二人で後片付けをする。
特に変哲のない、いつもの風景だ。
食器の掃除が終わり、僕はリビングへ向かう――その時に、彼女が声を掛けてきた。
「お、おい……ちょっと待てよ。
オマエまさか、今日が何の日か忘れてるんじゃないよな?」
「え?」
そう言われて僕は頭を回転させる。
初めて会った日……ではない。結婚式もまだだからそれも違う。
後は記念する日と言えば――
「はあ……ここまで物覚えの悪いヤツだったとは思ってなかったな。
度忘れにもほどがあるぞ?」
「えーっと……あ、」
ようやく僕は答えに行き当たる。
「にしても……よく覚えてたね。いつ教えたのかも覚えてないのに」
「へへっ、アタシがこんな大事な日を忘れるわけないだろ?」
彼女はそう言って、ホールケーキを冷蔵庫から持ってくる。
「デパートでうまそうなの買ってきたんだ。
一緒に食べよう
hearts;」
仲良くケーキを食べ終わり、僕たちは一息つく。
二人でワンホールは流石に多かったので、残りはまた明日食べることにした。
「改めてありがとう。ケーキ、美味しかったよ」
「だろ? 前見た時に決めてたんだよ、ココのにしようってな。
アタシの眼に狂いはねえ」
リビングにある大きなソファに二人並んで座って、ゆったりとした時間を楽しむ。
すると突然、彼女がこんなことを言い出す。
「……いつもはアタシの好きなようにしてるからよ。
今日ぐらい、オマエのやりたいようにしていいぜ?」
「え? それって……」
「だからさ、アタシがオマエのお願いを聞いてやるってんだよ。
こんな日、一年を通したって一回しかねェぞ?」
ししっ、とギザギザの歯を見せて笑う彼女。
そんな愛くるしい姿をじっと見ていると――願い事は一つしか思いつかなかった。
「じゃあ……そうだな。
今、どうしても食べたいものがあるんだけど」
「おっ?なんでも言ってみな。今のアタシならなんだって作ってやれるぞ」
僕の言葉に疑問を抱かず、彼女は薄い胸を張って自慢げな顔をする。
「じゃあ――」
――滅茶苦茶おいしくいただく。
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