捨てつぼまじんを拾ったら

 日が暮れかけた帰り道、人通りの少ない閑静な住宅街、アスファルトの道路の上。
 ”ひろってください”と書かれた段ボールの中。
 普通なら入っているのは子猫か子犬と相場が決まっているものだ。だが――

「……ツボ」

 壺。
 どこからどう見ても壺が段ボール箱の中に入っている。
 調度品には詳しくないので値打ち物かどうかまではよく分からないが、中世にありそうな見た目の壺で日本製には見えない。
 不法投棄されているようにしか見えないが、どこか壊れているという事もなさそうだ。

「つぼだー」
「ツボだね」
「ツボですね」

 私の横を三人組の少女たちが通る。ランドセルを背負っているから下校中なのだろう。
 『アリス』に『デビル』、『稲荷』と魔物娘の揃い踏みである。
 三人とも幼い(稲荷以外はずっとそう見えるだろうが)ので、見る人によっては眼福に違いない。 

「あれってどう見てもー……」
「アレだな」
「魔力からしてそうですわね」

 ……どういうことなのだろうか。

「ほっといていーのかなー?」
「いいんじゃない?」
「あの子も精が欲しいのでしょうし……そっとしておきましょう」
「ほっといたらあのおにーさん引っ掛かりそーだけどー」
「んー、ドーテーっぽい匂いだなあ……けどアタシたち、学校卒業するまでは襲っちゃダメって決まりだし」
「まあ、そうなのですか?……しかし、決まりは決まりです。とても名残惜しいですが、ここは身を引きましょうか」

 そんな事を言いながら、三人組の少女は歩いて行ってしまう。
 好き勝手言われていたような気もするが、何となく察しはついた。
 この壺はタダの壺ではないのだろう。
 スマートフォンで調べればすぐに情報は出てきた。
 壺に擬態する魔物、つぼまじんである。

「なるほど」
「……」

 私は一人ごちる。壺がかすかに震えたのは気のせいだっただろうか。
 彼女たちは壺に擬態し、覗き込んだものを中に引きずり込む魔物だそうだ。
 そして一度覗き込んでしまえば逃れる術はない、という恐ろしい魔物である。
 あの子たちの話を聞いていなければ、きっと私は壺の中を覗き込んでしまっていただろう。

「……っ」

 どこからか小さい声が聞こえたが、誰が発したのかは分からない。
 また、彼女たちに対する対処法は簡単で、壺の中に物を投げ入れることらしい。
 軽いものでも驚いて逃げてしまうし、重いものであれば中でぶつかって気絶して出てきてしまうとのこと。

「へぇ……」

 壺はそれなりに大きいが、さすがに女の子が隠れられるほどではない。
 この狭い中にどんな女の子が入っているのだろうか。
 好奇心に火がついた私は、その壺を家に持って帰ってみることにした。




「よいしょ……っと」

 幸い中には何も入っていないかのように軽かったので、道具がなくても持って帰ることはできた。
 中を覗き込まないようにするのに少し神経は使ったが。
 私は一人で住んでいる1Kのアパートの中に壺を運び込むと、部屋の真ん中に置いた。

「重いもの……ダンベル、は流石にまずいか……米袋でいいかな」

 以前、実家から送られてきた5kgの米袋を持ってきて、壺の中に落としてみる。
 当然米袋は壺の中に吸い込まれていき、

「――ぎゃっ!?」

 何かがぶつかる鈍い音。
 その突如、幼い女の子の悲鳴が響く。
 そして壺からぽんと飛び出してくる褐色肌の幼女。

「……きゅう」

 少女はうつぶせで床に投げ出されると、そのまま動かなくなった。
  



 私は気絶した少女をベッドに寝かせ、起きるのを近くで座って待つことにした。
 褐色肌の少女は空色の綺麗なショートヘアで、見るからに幼く小さく、小学生程度にしか見えない。
 したがって胸もぺたんこであり、手足も細い。魔物には到底見えなかった。
 着ているものも胸だけを隠す薄いチューブトップのようなものに、腰巻のような布きれだけ。浮浪児と言っても差し支えないほどの薄着だ。

「う……うぅ」

 呻き声を上げながら、上半身を起こした少女が目を開ける。
 オレンジ色の瞳は私を見るや否や怯えの表情に変わり、彼女はベッドの上で後ずさる。

「はっ……、あ、あなたですかっ?!ボクの壺に物を投げ込んだのはっ!?」
「あ……はい、そうです」
「なんてことをしてくれるんですかぁっ……!」
「ご、ごめん」

 少女は怯えながらも私を見て、声を荒げる。
 まあ、怒られるのは当然のことであった。

「ううぅ……こんなコトなら、ラタトスクさんにちゃんと情報を書き換えてもらってからこっちに来るべきだった……。
 大体タネがバレたら終わりなのに、すぐに逃げなかったボクもボクだし……」

 何かをぶつぶつと呟いている女の子は、私を見たり俯いたりを
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