捨てゾンビちゃんを拾ったら

 日が暮れかけた帰り道、人通りの少ない閑静な住宅街、アスファルトの道路の上。
 ”ひろってください”と書かれた段ボールの中。
 普通なら入っているのは子猫か子犬と相場が決まっているものだ。だが――

「……ぅ゛ー、ぁ゛ー」

 そこに入っているのは血色の悪い白髪の女の子。
 大きな子供のようにも見えるし、幼い大人のようにも見える。
 胸は小さく、少し痩せているほうだろうか。
 纏った布きれは方々が破けていて、血の気の失せた肌を覗かせている。
 包帯が巻かれているのでそこまでグロテスクなことにはなっていないが、その姿は痛ましい。

「ゾンビ……」

 『ゾンビ』というのは、以前は架空の存在である動く死体の事を指していたが、今では魔物娘の一つの事を指すようになった。
 魔物娘という存在が認知されてまだ一年ほどだが、彼等の出現は次第に僕らの常識と倫理観を覆していっている。
 僕は彼女の事が気になり、目前で立ち止まった。
  
「どうしてこんな所に……」
「うあ゛ー……?」

 ゾンビ少女は体育座りのまま、段ボール箱の中で呻く。
 そして僕の顔を見るなり、

「あ゛……!あ゛ぁー! うああ゛ー!」

 さっきとは打って変わって、大きな声で騒ぎ出す。
 人間を見つけたことで反応しているのだろうけど、その言葉は意味を成さない。もちろん、彼女の言いたいことなど僕に分かる訳もない。

「う゛ー! うーぅう゛ー!」

 ゾンビの思考は単純で、人間を見かけたら襲ってくるはずだが、少女は大きく呻いてじたばたしているだけだ。
 しかしよく見てみると、手足を縄のようなものでぐるぐると縛られているようだ。
 魔物娘にしては非力なゾンビの事、これでは動けるはずもない。

「あ゛ぁー! んう゛ー!」

 だが、自分で自分を縛るようなことがゾンビにあるはずもない。 
 段ボール箱に貼ってある「ひろってください」という文字も、他の誰かが書いたのだろう。

「一体誰がこんなことを?」
「うう? う゛ぅー……!」
  
 彼女に聞いても、答えはもちろん返ってこない。 
 
「身分証明できるものも……持ってなさそうだし」
「あ゛ー……」

 必然的に誰かに管理されやすいゾンビ達は、ドッグタグや首輪のようなものを付けている場合もあるが、彼女にはない。
 この子は野良ゾンビか、はたまたゾンビになったばかりの新米か。
 どちらにせよ……警察を呼ぶべきだろうか。

「ちょっと待ってて……今から、警察、を……ん?」
「……う゛……ぁ……」

 様子がおかしくなったのに気づき、ふとゾンビ少女の顔を見る。 
 彼女の両目から、涙が零れていた。

「涙……?」
「あ゛ぁ……あー……」

 確かに、この少女は泣いている。
 僕は驚いて、警察に電話するのも忘れていた。

「ゾンビでも、こんなに感情を表現することができるのか……」

 生ける屍の彼らに、そんなことができるとは思ってもいなかった。
 そして――なぜ彼女は泣いたのだろう?

「……」

 僕がどうしてそう思ったかははっきりと分からない。
 しかし、気が付いたら僕は彼女を連れて帰る決心をしていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――― 



 僕は自分のアパートに一度戻ると、車に乗ってゾンビ少女のいる所まで向かう。
 そして縛られたままの彼女をそのまま持ち帰り、家へ連れ帰った。
 まるで誘拐だが、誰のものでもないゾンビだ、きっと問題はない。
 彼女は僕を見つけるたびに大げさに反応し、何度も呻き声を上げた。

「う゛ー! あ゛ー!」
「さて……ここでなら、縄を外しても大丈夫だろう」

 僕は少女の両手両足に絡まった縄を解いていく。何のことはない、単純な縛り方だ。
 ただ、解く最中にも彼女が僕に触れようとしてくるため、そこそこ難儀した。

「うう゛ー? うー……」

 すべて縄が解けると、少女は確かめるように両手両足を動かす。
 自由になったことがわかると、床に座った僕の方へと這いよってきた。

「あぅ゛〜」

 僕の胸にすりすりと頭を擦りつけてくる。セミロングの白髪が揺れて少しくすぐったい。
 その頭を優しく撫でてやると、気持ちいいのか満足そうに呻いた。
 彼女から腐敗臭や死臭はしないが、嗅いだことのない不思議な匂いが漂っている。

「う゛ー♪ むぐ……むぐ……」

 擦り付けが終わると、今度は僕の首筋や肩を噛んでくる。
 しかしゾンビ少女ゆえにか歯は残っておらず、甘噛みにしかならない。
 くすぐったいことこの上ないが、彼女を制することはしなかった。

「う゛? あ゛……♪」
「!」

 満足し終えたところで、少女は僕の頭を持ち、少し強引に引き寄せてキスをしてくる。
 その唇は満足に血が通ってい
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