捨てゲイザーちゃんを拾ったら

 日が暮れかけたいつもの帰り道、人通りの少ない閑静な住宅街、アスファルトの道路の上。
 ”ひろってください”と書かれた段ボールの中。
 普通なら入っているのは子猫か子犬と相場が決まっているものだ。だが――

「……」

 そこに入っていたのは歪な姿をした少女”らしきもの”。
 身体だけ見れば、肩ほどまで伸びた癖っ毛な黒髪に、真っ白い肌をした女の子だ。
 年恰好は小学生か中学生ぐらいの子供である。
 だが、背中から黒い触手のようなものが十本ほど生えている。うねうねと動くそれには先端に赤い目玉が付いていて、作り物には到底見えず、彼女が人間でないことを顕著に表していた。
 それに服を着ていない。けれど、腕や足の肌には何か黒いものが張り付いており、さながら黒い手袋と靴下を履いているようにも見える。
 少女らしきものは、段ボール箱の中で背を丸め、顔を伏せ、膝に押し付けるようにして体育座りをしていた。

「……」

 僕は10メートルほど離れた場所からその様子を伺っていた。
 そして携帯電話を取り出して、彼女の特徴を打ち込んで検索サイトで調べてみる。
 前に何かの本で読んだことがあるが、確か彼女は『魔物娘』というやつで、人間ではないのだ。
 魔物娘というのがどういう種族なのか、僕自身はあんまりよく知らないが――人類と共存関係にあることは知っている。一部の学校では彼女たち専用のクラスがあるらしいけど、僕の学校にはそもそも魔物娘がいなかった。ただ、道端を歩いていればたまに出会うこともある。みんな整った顔立ちをしているのが印象的だ。
 彼女たちが初めて現れたのは何十年も前の話らしいので、僕が生まれる前のことである。

「……ぅ」

 顔を伏せたままほとんど動かない少女を観察しながら、画像検索を掛ける。すると、彼女に似た風貌の写真が出てきて、そこには『ゲイザー』という名前が記されていた。
 そうだ、彼女はゲイザー。
 その魔物娘の姿はとても印象的だったので、ある一点だけは僕も覚えていた。
 それは彼女たちに『目が一つしかない』ということだ。
 サイトに出てきた画像も、顔に大きな目が一つあるだけ、という少女のものだった。
 僕は本物のゲイザーを見るのは初めてだ。サイトにも書かれているが、彼女たちは珍しい個体らしいから、そのせいだろう。
 ゲイザーは”暗示”と呼ばれる力を使って、人の心を操れるらしいが――あまり詳しくは載っていない。
 あと彼女らは基本的に服を着ないようだが、それもなんというか、目のやり場に困る。

「……ううぅ」

 彼女に少しずつ近づいてみると、嗚咽のようなものが聞こえる。僕にはまだ気づいていないらしい。
 どうしよう。
 何をしているんだろう。
 なぜ体育座りでうずくまっているんだろう。
 そもそもどうしてこんな所で段ボールに入っているのだろう。
 会社員らしきスーツの男性が止まった僕を追い越し、彼女の前を通り過ぎる。彼はちらりと様子を伺っただけで、関心は見せずに歩き去ってしまった。興味がなかったのかもしれないし、面倒事には関わり合いたくないのかもしれない。彼女も反応は見せない。

「……ぐすっ」

 鼻をすする音が僕の耳まで聞こえる。泣いている、のだろうか。
 もしそうなら、彼女の事情がどうであれ、放っておくのはためらわれた。

「あの、えっと。 大丈夫?」

 僕は彼女の目前に立ち、恐る恐る話しかける。

「……えぅ……」

 明瞭でない返事。
 ただ、やっぱり泣いていたのだろうということは分かった。

「とりあえず、これを……」
「……」

 僕は珍しく持っていたハンカチを取り出して、彼女に差し出す。
 すると彼女の背中にある触手の目が何本かこっちを見た。
 そして、

「……ありがとう」

 そう言って、僕のハンカチを少女が受け取った。




――――――――――――――――――――――――――――――――――




「落ち着いた?」
「……うん」

 彼女は顔を伏せたまま、返事をする。
 相変わらず顔は上げてくれないが、とりあえず泣くのは収まったらしい。

「何かあったの?」

 そう聞くと、彼女の小さな身体がびくっと震えた。

「……捨てられたの」
「えっ?」
「親が……『家から出ていきなさい』……って……いきなり、言ってきて……。
 ほんとに突然で、理由もなんにも教えてくれなくて……。
 気が付いたら、知らない街にいたの……」
「そんな……」

 あまりの出来事に言葉に詰まる。
 もしこれが人間の子供であれば、立派な虐待と言っていいだろう。彼女たちに人間と同じ法律と倫理観が適当かどうかは分からないが。

「それで……、どこにも行くあてなくて、でもこれじゃダメだって思って……。
 思いきって、知らないヒトだったけ
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