あくまがきみを さらいにくるぞ

「おかえりなさーい」

 アパートの玄関を開けた祐太を迎えたのは、青肌の小さな少女だった。

 慌てて祐太は扉を閉める。部屋番号を確認する。
 何度見ても自分の家だ。
 訝しみながらもう一度玄関を開けると、やはりそこには自分の知らない少女がいる。

「……えっと」

 青い肌や暗赤色の瞳(しかも白目の部分が黒くなっていて特徴的な)、黒い翼にドクロのアクセサリー。小学生のような身の丈を除けば、”悪魔”のような風貌だと祐太は思う。
 肩まで伸びたツインテール、ほんのりと膨らんだ乳房、下着程度しか着衣のない惜しげもなく晒された青肌、肉付きの良さと整ったスタイルを両立させた太腿と腰回り。
 そのまま少女をじっと見ていると、彼女はにやりと微笑んだ。

「もう夜の十時だけど、ご飯は食べた?」
「え? いや、まだ……」
「よかった! おゆはんもう出来てるから、はやく食べよ!」

 あまりに突然のことで祐太には状況が理解できない。
 この少女は一体何者なのか?どうやって入ったのか?どうして他人の家で夕飯を作っているのか?

「ほら、いつまで立ってるの?早くしないとおゆはん冷めちゃうよ!」

 小さな蒼い手に引かれ、祐太はようやく靴を脱いで家に入った。









 豚の生姜焼きとキャベツの千切り、ほかほかの白米と味噌汁がテーブルに並んだところで、二人が向かい合ってテーブルに座る。
 祐太が住んでいるのは1DKのアパートで、部屋にはテレビとテーブル、ベッドと本棚ぐらいしかない。
 少女からお茶の入ったコップを受け取りながら、悠太が口を開いた。

「それで、君は一体……?」
「ワタシ? ワタシはアマルテア! ルテアって呼んでね!」
「ルテア……いや、名前じゃなくて」
「え? 違うの?」
「とりあえず、どうしてここに君がいて、なんでご飯を作ってくれたのかを……」
「まあまあ、じゃあご飯食べながら話してくね」

 いただきます、とルテアが一礼すると、悠太もつられて一礼をした。

「ワタシは”デビル”っていう魔物なの。それでねえ、えーっと、どこから話そうかな?」
「魔物……?」
「そうそう、あ、魔物って言ってもニンゲンを襲うわけじゃないよ!
 もうそーゆう時代は終わっちゃったからね、今はむしろ逆かなあ。
 それでね、今は少しずつ勢力を広げるためにスイメンカ?で活動してるの」
「……はぁ、」
「ところで今日は……えーっと、夜十時ぐらい?っていう時間に帰ってきたけど、いつもこうなの?」
「今日は……久しぶりかな」
「そっか、それならよかった。
 私達は独身のヒトの家を探してちょっかい掛けてるんだけど、最近はほら、イロイロあるでしょ?
 一人の生活が寂しかったり、仕事がキツかったりで体調崩しちゃう人とか多いの。
 そんでキミに白羽の矢が立ったってわけねー」
「……そうですか」
「あー、ご飯とお味噌汁のおかわりあるから、欲しくなったら言ってね!」
「どうも」




 夕飯を食べ終えると、ルテアは後片付けを始め、祐太はその場でごろりと寝転ぶ。
 食器を洗い場に運び終わり、皿洗いも終えるとルテアは床で寝転ぶ祐太を見つけた。

「ほらほら、寝るなら着替えてからねー」
「……ん」

 ルテアに促されるまま、祐太はカッターシャツとパンツを脱ぎ始める。脱いだ服を洗濯かごに入れると、祐太はそのままベッドに突っ伏した。
 こっそりルテアが近づくと、すぐに寝息が聞こえ始める。

「食べすぎたのかなあ。ワタシの料理おいしいもんね〜」

 にやにやと笑いながら、ルテアはうつ伏せに寝る悠太に布団を掛ける。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……困るんだよね、君がそういう心構えだと……新入社員に示しがつかないというか。
 ちゃんと残業代は出してるんだから、その分は働いてもらわないと……」
「も、申し訳ありません、課長」
「謝るのはいいからさ、ちゃんと成果で見せてくれよ。
 ウチの課は特に成績悪いって上からも言われてるんだよ?」
「は、はい」
「まったく……どうしてこう使えない奴ばかりウチの部署に来るんだ」
「……」


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「おはよ〜、もう朝ごはんできてるよ」

 祐太が目を開けると、自分の上で寝転ぶ青肌の少女――ルテアの姿があった。
 確かな重さと体温がそれは夢ではないと主張してくる。
 閉まったカーテンからはもう日がとっぷりと射していた。

「……い、今、何時?」
「もうすぐ七時半だよ」
「は、早くしないと……!今日は朝一で会議があるのに!」
「ええっ、そうなの?でも朝ごはん食べるくらいは……」
「ね、ネクタイ、鞄、」
「……」
 
 
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