『変わらぬ想い』を

 いつから、わたしはお母さんとうまく話せなくなったんだろう。

 
 父親は私が生まれてすぐに事故で亡くなり、母子家庭で育った私は、母よりもおじいちゃんが好きなおじいちゃんっ子だった。
 おじいちゃんは「つゆりは母さんに似てるな」というのが口癖で、頑固なところはあったけど、父のいない私たち家族の事を、私のことを心配してくれて、よく家に遊びに来てくれた。
 おばあちゃんが父よりも大分前に亡くなっていたことも、きっと関係あるとは思うけれど。

「つゆりは、どうしてお前の名前がつゆりだか知ってるか?」
「どうして?」
「ツユクサっていう、青い花を咲かせる花があるんだ。素朴な花で、あんまり見栄えはしないが。
 うちの畑にも生えてる」
「お花なら、もっと大きいアサガオがよかったなぁ」
「たしかにツユクサは地味な花かもな。
 ただ、お前の母さんの名前が梨由(りゆ)だから、そこから取ったとも言ってたよ。
 それともうひとつ。ツユクサの花言葉、知ってるか」
「しらなーい」

 溺愛されていたとは思うけれど、おじいちゃんは決して私を甘やかすわけではなく、悪い事は悪いとはっきり分別をつけて私を叱っていたと思う。
 私は昔からいたずら好きな子だったけれど、おじいちゃんだけにはそんな事しなかった。
 おじいちゃんが私に怒るのが、悲しむのが、心の底から怖くて。


 だから、おじいちゃんがいつかはいなくなる事なんて、その時は知らなかったのだ。


 幼稚園の頃は人見知りしない子だと言われて、どちらかといえばお転婆だった私。
 小学生になってからも色んな友達ができていたし、外で遊ぶのも嫌いじゃなかった。砂遊びで男の子を泣かせたこともあった。
 おじいちゃんに自分の考えたいたずらを話すのが、とても楽しかった。

 少しずつ変わり出したのは中学校に入ってからだった。

 私は勉強をそれなりにがんばって、家から遠い私立の中学校まで電車で通うことになった。
 ただ夜まで頑張ったせいか目が悪くなって眼鏡を掛けるようになり、何度も眼鏡を踏んで割ってしまったのがきっかけで、激しいスポーツもしなくなった。
 しかも小学校の頃にクラスで仲の良かった子が皆近くの公立中に行ってしまい、私は友達作りをまた一から始めなければならなかった。

 人見知りじゃなかったはずの私はどこにも居なくて、クラスの子達と仲良くなれない。
 電車で通わないといけないから放課後も一緒に遊びに行けない。
 クラブ活動も、電車のせいで時間の縛られない文化系のものに入った。
 おじいちゃんは手先が器用で、おばあちゃんより手芸が得意だった。それでよく私にそれを教えてくれたせいか、私もそれが趣味みたいになっていたので、結局私は手芸部に決めた。
 でも母は、「それなら大丈夫そうね」と言うばかりで、またすぐに大きなノートパソコンへ目線を戻した。
 
 ちょうどその一週間後。
 学校まで母が迎えに来て「おじいちゃんの所へ行きましょうか」と、母さんに言われた。
 母さんもその時だけは仕事を休んだらしく、病院へ私をそのまま運んで行ってくれた。
 信号待ちをしていた車の中で私は、
 
「どうしてこんな急に会いに行くの?」

 と、母さんに聞く。
 車の中ではお母さんは答えてくれなかった。
 病院に着いて、病室の前で初めて私に話しかけた。

「おじいちゃんに、甘えてあげて」

 おじいちゃんは病室でずっと寝ていた。
 私達が来ても起きず、病院にいた他の親戚のおじさんと話をしていても起きなかった。
 その日の夜。
 もうおじいちゃんはずっと起きないのだと、ようやく理解した。











「英語の小テストぜったいここ出るってー」
「範囲ここでしょ?それ昨日のだよ」
「うえーマジかー! やっちゃったわーははは」

 中学校の教室の中、私はお弁当を食べ終わって一人静かに本を読んでいた。 
 周りは騒いでいるけれど、私に話しかける人はいない。あったとしても必要な用事だけ。
 小学校で仲の良かった子達同士がグループを組んだり離れたりするのを、ただ黙って見ていた。
 幸いと言っていいのか、誰かが学校に来れなくなるような、誰かが登校しなくなるような、そんないじめは私たちのクラスにないように思えた。少なくともわたしの見える範囲では。
 友達と言えるような存在は私には無かったけれど、声を掛けて無視されたりすることもなかった。
 ただ、それが無性に悲しいこともあった。
 嫌悪されることはない、けれど意識されることもない。
 いじめの気配には先生も敏感だったけれど、生徒の友人の有無には無関心だった。

 私はスクールカーストの何処かも分からない場所で、ぼうっと立ちすくんでいたのだ。



 家に帰っても、母さんはいつも夜遅くにようやく帰
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