休日の朝十時。久しぶりによく寝たと伸びをして、ベランダに出て日光を浴びながら僕は外を見る。
僕のアパートは五階にあり、道路を挟んで向かいに同じくらいの大きさのマンションが建っていた。
……うん? 向かいにマンションなんかあったっけ?
いや、ちゃんと人が住んでるんだからあったに決まってる。寝ぼけてるのかな。
同じ階の部屋には、真っ白なTシャツを着た女の子がベランダに立っていた。
ここからはその子の斜め後姿、それも壁のせいで上半身だけしか見えないが、薄紫色の綺麗なショートヘアで、うなじが綺麗だ。
胸が大きく、斜め後ろからでもその膨らみが見える。
思わず僕は気を取られ、つい視線がその部位に行ってしまう。
顔はよく見えないが、その女の子が下着を着けておらず、艶めかしい白肌なのはなぜか分かった。
僕がその子を見ていると、その子は自分の白いTシャツをゆっくり脱ぎ始めた。
背中の綺麗なラインに、シュッと引き締まったくびれが露わになっていく。
そしてその豊かな胸がぷるんと揺れ、シャツの下にある乳房が、薄いピンクの乳首が――、
……ああ、そこで僕は目が覚めたんだっけ。
あんな夢を見るなんて久しぶりだったけど、欲求不満なんだろうか。
「……、……の、……あ……の、」
朝の夢を思い出しながら、僕は大学への道を歩く。
おとといに自転車が壊れてしまったので徒歩で行かざるをえない。
歩いても二十分ほどで着くには着くが、早いに越したことはないというものだ。
「……あ、あ、あ、あの、」
「? ……あっ、ゆかりさん。おはようございます」
「お、おっ、お……おは……ようっ」
後ろから声をかけてきたのは、僕と同じ文芸サークルの糸月(いとつき)ゆかりさんだった。まだ肌寒いせいか、分厚い紫のセーターを着ている。
ゆかりさんは他の女性と比べても声が小さくて、それによく口籠ってしまうので、通る車の音に掻き消されそうになる。僕より一つ年上の先輩なのだけど、とにかく気の弱い人で、目元まで髪を伸ばして顔を隠しているのが特徴だ。髪は薄紫色のショートボブで、少し癖っ毛なところがある。
そういえば、夢の女の子も同じ髪色だったっけ。
……いかんいかん、ヘンな事を考えたら白い目で見られそうだ。まあ、ゆかりさんの目元は髪で隠れてるけど。
「ゆかりさん、今日の部会には来られるんですか?」
「……あ、う、うん」
「あ、じゃあこの前言ってた作品、見せてくださいね」
「え……! え、わ、わ、わかっ、たっ」
直接聞いた事は無いけど……ゆかりさんって彼氏とかいるのかなあ。
うーん、気弱そうだから変な人に引っかかったりしてないといいけど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
……ぼくは何をしていたんだっけ?
ここは……ぼくが行ってた小学校の……ほけん室?
ああそうだ、校ていで遊んでたらケガをしちゃって、ほけん室の先生といっしょに来たんだ。
イスにすわってちょっと待ってて、ってせんせーが言ってたから、おとなしく待っていよう。
ほけん室って、しょうどく液みたいなニオイとか、薬っぽいニオイがしてヘンなカンジ。
それに今はみんなじゅぎょう中だから、すごくしずかだ。とけいのカチッカチッていう音しかしない。
じーっと待っていたら、ほけん室のとびらがガラッと開いて、先生が白いふくをきてやってきた。
「あ、せんせい」
「ごめんねー、消毒液切らしてたの忘れてて。
でも大丈夫、すぐに痛いの治してあげるから……」
ぼくのイスの前に先生がすわって、ぼくのからだにさわさわと手を当てる。
先生が近くにくると、ハチミツみたいなすごく甘いにおいがした。
それに先生のかみの毛はうすいむらさきで長くてサラっとしてて、すごくやわらかそう。それに、女の子の友だちとは比べものにならないくらい、おっぱいも大きいし……。
まえがみが長いからカオがかくれて見えづらいけど、テレビにでてくるどんな女ゆうさんよりもかわいくてきれいだ。
「ぜんぜんいたくないからだいじょうぶだよ」
「だーめ。ちゃんとキレイにしないとばい菌が入っちゃうから」
もっと近づいてにおいをかいでみたいけど、そんなコトしたら先生はおこって、きっとぼくのことをいやらしい子だって思っちゃう。
ヘンなことを考えないようにあわてて目をそらすと、先生のからだがなんだかおかしいのにぼくは気づいた。足がうしろにもイスから二本のびていて、からだがながくて毛がいっぱい。
……まるで馬みたい? でも、むらさきのお馬さんなんていたっけ?
「……あれ? せんせい、あしがよんほんもある……?」
「えっ? あ、ああ。何言ってる
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