ろんりー・まみー



 包帯だらけの女の子が、自宅の前の道路にピクリとも動かず倒れている。


 大学に行こうと玄関を開け、階段を降りようとした瞬間、倒れている女の子がそこにいた。
 その女の子は包帯で身体がぐるぐる巻きになっていて、しかも服を着ていなかった。
 僕は慌ててつまづきそうになりながらも階段を降り、その女の子に駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか?!」

 女の子は冷たいはずのアスファルトの上で仰向けになり、しかし安らかな顔で寝ていた。子供のようにあどけない顔つきは幼さを色濃く残している。
 日に焼けたような肌を隠すのは白い包帯だけで、上着は身に着けていない。お腹から腰にかけての部分と太ももは少しだけ肌が露出していて、肌の色も相成って健康的な肉付きに見えた。
 腰回りには古傷のような模様があるけれど、これはケガではないだろう。
 幸いと言っていいのか、胸や局部は包帯で何重にも覆われており目のやり場には困らない。が、胸は不自然なほど大きく膨らんでいた。
 背丈は僕より少し低い程度で、薄緑色の腰まで伸びたロングヘアはぼさっとしており、額に巻かれた包帯からぴょんとはみ出して跳ねている。前髪も目元を隠せるほど長かった。
 この女性、包帯だらけなのに外傷は見当たらず、近づくと寝息が聞こえてくる。

「生きてる……よな?」

 少なくとも遺体などではない事が分かって、僕はほっとする。
 しかし同時に、このわけのわからない状況をどうしたものかと悩むことになった。
 彼女はどこから来て、どうしてこんな所に寝ているんだ?

「すみません、あの、」

 静かに寝息を立てる彼女を起こそうと、僕は彼女の身体を包帯の上から揺すってみる。
 触った包帯はどこか不思議な感触がして、普通の布とはどこか違う。

「……?」

 何度か肩を揺らしてみると、女の子がゆっくりと目を開ける。しかし彼女の大きな眼は半眼ほどしか開かず、眠そうな表情を見せる。

「……」

 その無表情な顔のまま女の子は僕をじっと見つめている。純粋そうな瞳は犬猫のようにくりっとしていて、長い睫毛が印象的だった。 
 息はしているし、僅かにだが目も動いているので意識だってあるだろう。
 しかし、彼女は動かない。何もしゃべらない。

「だ、大丈夫、ですか?」

 僕はもう一度声を掛ける。

「……だいじょうぶ」

 静かな声で呟く彼女は慌てる様子もなく、ただひたすらにぼんやりしたままだった。






 ――それから十分後。
 僕は大学に行く予定を放棄し、彼女をなんとか起こしたあと、ひとまず僕の家に連れて行った。
 昨日めずらしく掃除をしておいたので、幸い部屋はあまり散らかっていない。

「狭いところだけど、どうぞ」

 女の子を家に上げるので僕は緊張していたが、彼女に緊張している様子はない。道路の上で寝ていた時と同じの無表情にも近い半眼のままで、目元が髪で隠れるせいか、どこかミステリアスな姿だった。
 ただ、彼女がじっとしているかというと、そうではない。
 彼女の視線はせわしなく動いていて、部屋の中をくまなく見渡したかと思うと、テレビやテーブルを調べるようにじっと見つめたり、そっと触ったりしていた。

「……やわらか」

  部屋を歩き回る彼女はカーペットの上に立つと動きをぴたっと止め、そのままカーペットの上に座る。それからその感触を確かめるようにすりすりと手で撫でていた。
 
「あ、はい座布団」

 クローゼットからクッションを出して僕が手渡すと、彼女は少し目を見開いた。

「! もっと、やわらか……!」

 女の子はもの珍しそうにクッションをじろじろ眺め、むにむにとつまんでその柔らかさを確かめていた。すると今度は床に置いて、楽しそうにぽむぽむと叩きはじめる。
 変な子だなあと思いながらも、犬や猫を見つめるような気分で僕は彼女の行動を観察していた。
 しばらくして彼女はカーペットの上で体育座りになって、太ももと胸の間にクッションをぎゅっと挟んだ体勢になった。表情は作らないままだったが、なぜか満足そうだ。
 テーブルを挟むようにして彼女の向かいに僕が座り、彼女に質問する。

「えーと……まず、君の名前は?」
「……? なまえ……は、」

 少し悩むような仕草の後、思い付いたように彼女は右腕に巻かれた自分の包帯を何回か捲っていく。
 すると、包帯の裏には『27』という数字が点在するように、一定の間隔で印字されていた。

「これ」
 
 少女はその『27』という番号を指さして答える。
 表情には出さなかったが、その異様な包帯を見て僕はぎょっとした。
 この包帯も彼女も、どう考えても普通じゃない。 一体この少女は何者なんだ?

「二十七……ってことは、にな、ちゃん?」
「……? ごしゅじんさま、『27ばん
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