僕がダイニングに入ると、彼女はテーブルに着いたまま僕を見た。
彼女の視線は僕の持ったラッピングされた箱に映る。背中から伸びる触手の目玉も興味津々といった感じだ。
「んだよ、それ」
「ホントはご飯食べてから渡したかったんだけど。
……ほら、今日って何の日か知ってる?」
「あー、うん……そういえば、スーパーでも何か言ってた……かな。
あれ? でもバレンタインってあたしから……あ、いや、」
「うん、ホントは、女の子からチョコを貰う日なんだけど。
今回は僕が悪かったから、そのお返しの意味もこめて、ね」
そう言って、僕はラッピングされた箱を彼女に手渡す。
おもちゃを見つめるような純粋な目で、それを受け取る彼女。
「……ま、貰っといてやるよ。デザートにはなりそうだしな。
ほら、早く食べろよ。お腹空いてるんだろ」
ぶっきらぼうに箱を受け取る彼女だけれど、分かりやすく言葉には棘が抜けていた。
そして僕は席を立って、彼女のそばに歩み寄る。
大きな赤い一つ目が、僕を上目遣いで見上げた。
「? なん……っ」
僕が彼女の頭をそっと撫でてあげると、彼女の言葉が止まる。
「本当に、ありがとう」
「ばっ……あ、っ、す、スープの様子、見てくるっ」
僕から目線を逸らしながら勢いよく彼女は立ち上がって、僕と顔を合わせないようにキッチンの方へ行った。
「……ふう。ごちそうさまでした。今回のはとっても美味しかったよ」
「おいこら、”今回の”は余計だっての。しゃーねーだろ、料理初めたばっかりなんだから」
僕は食後のコーヒーを二人分淹れて、リビングのソファに彼女と座る。
「はは、ごめんごめん。あ、それじゃあ買ってきたチョコも食べる?」
「……ああ、それなんだけどよ。
その、チョコだけどさ……あたしも、一応……つ、作ったのがあるんだよ」
「えっ、ほんとに? じゃあ、僕はそっちを」
「ち、違うぞ! 料理の練習にちょっと、その、やってみようって思っただけだからな!」
分かりやすい台詞を喋る彼女の言葉を聞きながら、僕は彼女が作ったチョコレートに手を伸ばす。
ぱっと見はハート型の、普通のチョコだ。
「それじゃ、いただきます」
「お、おう。あたしもいただくぞ」
僕と彼女は一緒に、互いが渡したチョコを食べる。
一口齧ってみると、チョコの味に混じってそれとは違う甘味を感じた。
クセになりそうな、とろっとした甘さ。
でも不思議な事にその味が何かはよく分からない。けど、どこかで味わった事がある甘さだ。
クリーム? 果物? はちみつ? ううん、どれも違う感じがする。
もう一口、もう一口……と食べているうちに、チョコはもう半分ほどになっていた。
「うーん、おいしい。けど、何が入ってるのか分からない……」
「ふえ?」
横から聞こえる、どこか腑抜けた彼女の声。
その異変に気づいた僕が振り向くと、彼女の頬が赤くなって、ぼんやりしているのが分かった。
大きな赤い一つ目はとろんと蕩けたまま、口元はチョコをもぐもぐと咀嚼している。テーブルには包み紙が3個ほど散乱していた。
「……なんだー? このちょこ、すごく、いい気分になるなー。
まだ、酒も、のんでないのに……」
「え? あれ?」
慌てて僕は自分の買ってきたチョコを確かめる。
箱の表面には”特製!真心のこもったときめきチョコ、恋人のいる方にぜひ!”というキャッチコピーが張られている。
僕の街では有名な個人経営の洋菓子店で買ってきたものだけど……何かヘンな物でも入ってたのか?
そういえば店員の方も『ぜひ、二人っきりの時にお召し上がりくださいね』と念を押してきたけれど……。
……まさか。
「なあ……おまえも、そうだろ?」
箱をじっと眺めていた僕は彼女に押し倒され、ソファに二人とも寝転がる形になる。
彼女の赤い一つ目が、じいっと僕を見つめた。
「あ――、」
しまった、と思った時には遅かった。
彼女の目を見てしまった。
「あたしさあ。ほーんとうに心配したんだぞ。
ちょっとだけ、……ちょっとだけど、泣いちゃったんだからな。
だからあ……きょうは、ずーっと、あたしといっしょになれぇーっ……」
ぐっ、と視界の輪郭がぼやけるような感覚。酩酊のような、貧血のぼんやりするような感じだ。
ただ身体だけは燃えるように体温を上げ始めて、息が荒くなる。
さわさわと、彼女が僕の股間を撫でた。
「ほおら……もう、がまん、できなくなってきたろ。
あたしのナカ、いっぱいにして、なんにもわかんなくなるまで、ゆるさない、からなぁー……!」
「あ、う、ああっ!」
僕は破り捨てそうな勢いで服を脱ぎ散らかし、裸になって彼女をぎゅっと抱きしめ
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