【0。】
きみはどこにでもいるような大学生だ。
入学して一年が経ち、ようやく学業にも独り暮らしにも慣れ始めた頃、きみはある噂話を聞く。
きみの通う大学にある図書館、そこに化物が現れるという噂だ。
どこで聞いたかも覚えていないが、何故かきみはそれが心の隅に残っていた。
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【1】
講義が終わり時間の空いたきみは、暇潰しになる本を探そうと思って大学の図書館を訪れた。
三階奥の文庫本がある書庫にやってきたが、空調の音が鳴るばかりで人っ気はない。
なぜ三階奥に来たかと言うと、人が寝転がれるほど大きな黒いソファが置いてあるからだ。
不思議とそこに座る人を見た事はなかったが、それはたぶん図書館に人が少ないせいだろう。
とりあえずきみはそのソファに座って本を読もうと、部屋の奥へ歩いて行く。
すると、廊下を歩くきみの目前に誰かがすっと出てきた。
きみとは頭一つ以上の差があるが、小さな女の子――なのか、きみには分からなかった。
彼女はたしかに少女のような肢体をしているのだが、服の一枚も纏っていない。しかも、灰のような肌色と、隅のように真っ黒な手先と足先に、彼女の背中から伸びる虫の腹のような形をした黒い触手という、奇怪な姿。極めつけは、顔の半分を埋めてしまいそうなほどに大きな赤い一つ目だ。
ぱっと見ただけで、彼女は人間ではないときみは理解する。
きみが手にしていた本は床に落ちて、ばたん、と音を立てた。
同時に彼女が、水の中にいるみたいにふわっと宙へ浮いた。
声も出せずに驚いているきみに、ふふっ、と笑いながら少女がきみに話しかけてくる。
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【2】
「君は、本を読むのが好きかな」
少女にしては低い声だが、きみにも分かる言葉を話した。流暢な日本語だ。
そのまま彼女はきみの方へ、音もなくすーっと近づいてくる。どんな力かは分からないが、彼女は少しだけ浮いているのだ。
「だからここに来たんだろう。
実はアタシも、すごく本が好きでね。ここらにある本は大体読んだよ」
きみが手を伸ばせば届くほどの距離まで来た彼女は、きみの顔をじっと見上げる。
その大きな赤い一つ目と、きみはばっちり目が合う。
図書館を包む本の匂いと一緒にほんのりと、ペパーミントのようなみずみずしい匂いがした。
「それでね、ちょっと、試してみようと思って。
君、話とか書ける?
……ああいや、そんな上等なモンじゃなくて、フツーの人間に出来る程度でいいんだ」
よく分からない相手に、よく分からない事を聞かれたきみは返答に困る。
きみはどう答える?
・「書ける」 → 【3】へ
・「無理だ」 → 【4】へ
・「そんなことよりセックスしよう」 → 【5】へ
【3】
きみは一つ目の少女の質問に対して二つ返事で「書ける」と答えた。
元々きみは、自分で物語を作ったことがあるのか、もしくは興味があったのだろう。
「おっ、そりゃあ良かった。中々自信がありそうじゃないか」
機嫌を良くしたような声で彼女が言い、ふふん、と鼻を鳴らしながら言葉を続ける。
「期待してるよ。あ、ジャンルはきみに任せるから。
手書きでもなんでもいいから、とりあえず読める形にして持ってきてね」
一つ目の少女はきみの前で少し浮きあがると「頑張って」と耳元で囁いた。
とてもくすっぐたくて、耳に残る不思議な感触だった。
そのまま君の横を通り過ぎていった少女はその日のあいだ、図書館のどこを探しても見つからなかった。
→ 【7】へ
【4】
きみは一つ目の少女の要求を無理だと断った。
すると彼女は細眉をひそめて、んー、と言いながら悩んだ顔をする。
「なに、自信ないんだ?
別にここにある本みたいなしっかりしたヤツじゃなくていいよ、ちょこっと書いてみてって」
しかし、ときみは渋ったような返事をする。
何しろこんな訳のわからない少女からされた要求だ、たとえ自信があっても返事はしにくい。
「んまあ、いいよ、それならそれで、ね。君が断れないようにするだけさ」
意味ありげな言葉を残すと、彼女はじっと赤い一つ目できみの顔を睨んだ。
しかし怒っている様子もないし、今からきみを脅迫しようという風にも見えない。
「期待してるから」
彼女がふよっと浮いたかと思うと、きみの横をすっと通り過ぎた。
慌ててきみは振り返ったが、奇怪な彼女の姿はもうどこにもなかった。
→ 【7】へ
【5】
「……え」
「そんなことはいいからセックスしたい」ときみは自分から少女に詰め寄った。
「……その、聞き間違い、かな?
さっき……せ、セックス、したいと、聞こえたような……」
流石にそんな事を言い出すとは思わなかっ
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