一ツ目ハウスだ!

 ……囲まれた。
 壁を背にした僕に、右から、左から、正面から、一気に三体ものゲイザー達が近づいてくる。

 さっき青い目の小さいゲイザーを見たときから悪い予感はしてたけど、まさかゲイザーみたいな上級魔物がこんな小さなダンジョンに、しかも何匹もいるなんて思わなかった。
 ゲイザーのことは「一つ目で、触手がいっぱいある魔物」としか知らなかった僕にとって、本物のゲイザーは大分イメージと違った。目玉ひとつがふわふわと浮いてて、触手だらけの感じを思い描いてたのに、こんな人間らしい体格をしているなんて。
 彼女たちの一つ目は丸くて綺麗で、体つきもなんというかスタイルが良いし、全身を包む白い肌はシルクの布のように綺麗だ。それと白い肌には黒い結晶のような物が付いていて、大事な所はその黒い何かで覆われている。
 背中から伸びる黒い触手は怪しいけれど、どこかそれも神秘的に見えた。

「ねえお兄さん、さっきはウチの妹が世話になったみたいだねェ」
「私たちのカワイイ妹いじめて、ただで帰れるなんて思ってないでしょー?」
「……いたかった」

 ゲイザー達にふわふわと浮かびながらにじり寄られ、僕は少しずつ距離を詰められていく。右の方を見ると、前の階で見た青い目の小さなゲイザーがいた。
 どうやらその子の仕返しにきたらしい。
 ……と言っても、会ったときからその子が無警戒に付いてきて、「危ないから来るな」って言っても聞かないから盾でこつんと叩いただけで、恨みを買われるほどの事をした覚えはない。

「その子をいじめた覚えはないけど……言ってもダメか」
「そうなんだよねェ、ま、大人しく食べられたらどうだい?
 あたしら三姉妹で、たーっぷり可愛がったげるからさぁ……?」

 しかし確かに、この三体は姉妹のように顔が似ている。一番背丈の高いゲイザーは赤い目、その次に大きいゲイザーは緑の目、一番小さいゲイザーは青い目で、胸の大きさも背丈に比例するように――と、余計な事を考えてる場合じゃない。

「無暗に争いなんかしたくないんだ、見逃してくれ」
「ふぅん? ずいぶん優しいコト言ってくれるじゃない」
「そーだね、シルメが気に入っただけはありそー」

 僕の言葉に従ってくれるわけもなく、ゲイザー達の歩みは止まらない。
 すると緑の目のゲイザーが、その大きな一つ目を煌めかせながら僕をじろじろと睨みつける。

「さ、暗示掛けてあげちゃうからねー。暴れちゃダメだよー」

 暗示。
 それはゲイザーにとっての最大の武器であり、最も恐れるべき魔法だ。
 しかし、今の僕にとっては大した脅威にならない。
 何故なら、僕の持っている盾は『ゲイズの盾』と呼ばれる特製品で、これはゲイザー達の催眠術や暗示を装備しているだけで防いでくれる。
 この盾さえ手放さなければ、ゲイザー達の暗示に僕が掛かる事は絶対にない! 絶対にだ!

「あれー? おかしいなぁー?」
「くふふ、どうしたの? クメル」

 もうお互いが手を伸ばせば届くような距離だが、恐れることはない。
 ゲイザー達の戦闘力そのものも低いわけではないけど、彼女たちが暗示を掛ける事に集中している今なら三対一でもなんとかなる。
 暗示さえ防げれば、たとえゲイザーに囲まれても切り抜ける事は可能だ……!

「どうしたのかなー? 私の暗示が掛からないよー?」
「へえ、そりゃあヘンだねぇ、じゃあ代わりにあたしがやったげるよ」
「……(こくこく)」

 続いて赤い目をした胸が大きいゲイザーが僕をじろじろと見つめるけれど、僕に暗示はもう効かないから大丈夫だろう。
 でも、いくら魔物といっても無益な争いはしないほうがいい。
 暗示が効いてないと気付かれる前に、この包囲から抜け出さないと。

「んん、ほんとだ、暗示が効かないねェ。なんでかしら」
「ありゃー、お姉ちゃんでもダメかー。どうしよっかー?
 ……んふふっ♪」

 他の二人にも気を配りながら、一番出し抜きやすそうな緑目の、幼いゲイザーの方へゆっくりと僕は近づく。

「悪いけど、先を急ぐんだ。だから――」

 横を強引にすり抜けようとした瞬間、青い目のゲイザーにぼふ、と毛皮の鎧の上から僕の腰へ抱きつかれる。
 小さな子にケガはさせたくないけど仕方ない、ここは無理やりにでも、

「……だめっ」

 ぎゅっ、と彼女が僕に抱きつく力が強くなる。黒い触手も一緒になって僕に絡みつく。
 あれ? なぜだ、身体に力が入らない……?

「――はぁ、ほんと一丁前に暗示も使えるようになって。
 アタシに似て覚えがいいし、オトコを見る目も中々ってトコかな」
「そーだよねー。この子、すっごくおいしそー」
「……(にこにこ)」

 ど、どうして?
 赤目と緑目、二人のゲイザーが寄ってくるのに、地面に引っ付いたみたいに足が動かせな
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