「青年よ、よくぞ私を呼び出してくれた。
我こそはこの魔法のランプに宿る精霊、”ジーニー”だ!
褒美にお前の願いを3つ、何でも叶えてやろう!」
ランプを擦られて意識がはっきりと覚醒し、煙と共にランプから出て、私は考えていた前口上を鮮やかに述べる。うん、イメージトレーニング通りバッチリだ。
「えっ……え?」
私を呼び出したのはどこにでもいる普通の男のようで、目を丸くさせながらこっちを見ていた。
あまり私はニンゲンを見たことがないので青年、というぐらいしか分からないが。
……しかし、ここはどこなのだろう?
この男が住む建物の中のようだが、窓からちらりと見えた外は砂漠ではなかった。男が着ている衣服や家の中の家具らしきものも、私には見覚えがない。
まあ、それはさておこう。
「えっと……どういうことでしょうか」
まあ、さすがにいきなり言われては理解も出来まい。ここはちゃんと練っておいた要約で説明してやることにしよう。
「我は”ジーニー”と呼ばれる種族であり、このランプの精霊だ。お前が擦ったことで呼び出された」
「でも、それでなぜ願いを叶えてくれるんですか……?」
「ふむ、少し説明が早まったな。
正確に言えば、我は契約を結ぶことで、お前の願いを”3つ”叶えてやれるのだ」
実をいうと、叶えられる願いの数に制限は一切ない。
だが『自由にしていい』と言われると何をしていいのか分からなくなる者も多い。
交渉事においては、あえて縛ることがさらなる欲望を生みだすのだ。
……ちゃんと考えを練っておいてよかった。
「契約?」
「魔物である我は、精を得る事、即ち男性の傍にいて、その者と性交をすることで魔力を補給する。
お前と契約し精を得るという条件のもと、その魔力で願いを叶えてやれるのだ。
そして私の魔法は、契約者であるお前の望みを叶えることに近ければ近いほど、最大限の効力を発揮する」
「……うーん」
「なんだ?」
男は怪訝そうな顔をする。
「いきなり願いを叶えられるって言われても……。
パッとは思いつかないし、そもそも君が叶えてくれるのかも怪しいし」
「む……」
この男の身なり、そしてこの部屋の中を見ると、おそらくは生活に困っているというふうではない。富んでいるというほどでもないが、貧に飢えているようでもなかった。
そして私が願いを叶えられるかどうか、それは口頭だけでは納得できないのも無理はない。
「成程、お前の言うとおりだ。まずは見本を見せるとしよう」
私は男が座った前にあるテーブルを見つめ、指をさし、魔法を行使する。
「せいっ!」
煙と共に、テーブルの上には皿に乗った大きなパンが突然現れる。
「わっ! え? ぱ、パンがいきなり……?」
「たとえ契約を結ばなくてもこの程度は可能だ。
それをちぎって食べて、本物かどうか確かめてみるといい。
手品や催眠術や超スピードだとか、そんなチャチなものでないことが分かるぞ」
「ま、まさか……んぐ、ほ、本当にちゃんとしたパンだ。あんまり美味しくはないけど……」
む……味もちゃんとしておいたはずなのだが、勉強不足だったか……まあいい。
とにかくこれで男の疑いもほとんど解けたはずだ。
「さあ、どうだ。これでひとまずの証明にはなっただろう」
「うーむ……でもさすがに、何でもは叶えられないよね?」
さすがにあれだけでは心からの信用は得られなかったらしい。
男の質問に、私は正直に答える。
「そうだな……我も万能ではない、ゆえに、不可能な願いはある。
そればかりは願いを聞いてからでなければ判断が出来ぬな。
また、我にも当然気の進まぬ願いはある。それはこちらから却下を下す。
つまり、あくまでもこの契約は合意のもと行われる。
いかに私を呼び覚ました者であろうと、絶対服従の意を示すものではない」
「なるほど……」
男は腕を組んで何かを考えている。
よし、この男の欲望を利用すれば、私の欲望も魔力も満たされていくだろう。
この者はどんな願いを、欲望を欲するのか――。
「……じゃあ、ちょっと考えさせて」
「なにっ?!」
私は思わず妙な声を上げてしまう。
「え、えっと……ほら。さっきも言ったけど、さすがにすぐには思いつかないよ。
時間制限があるわけじゃないんだよね?」
「むむ……」
そういえば、それは考えていなかった。
ニンゲンの頭の中はみな欲望でいっぱいで、手に入るものならすぐにでも飛びつくものだと思っていたからだ。
制限として期限を決めておくべきだろうか?ふむ……。
「……では、願いを待とう。我も気が短いわけではない。
何より、お前が満足することが第一であるからな」
「そっか……ありがとう!」
「う、うむ
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