>ゲイザーの子が気になった

 新学期、そして新しいクラス。その発表は今日だ。
 なのに遅刻しそうで焦っていた僕は、玄関から下駄箱への道で勢いよく誰かにぶつかってしまった。
 その時かすかに聞こえた声は女の子のものだったので、更に僕は焦ってしまう。

「いてて……ったく、どこに目ェ付けてんだオマエ!」

 床にお尻を付いたその姿は確かに女性で、そして人間ではなかった。
 学校ではとても珍しいゲイザーという種族の子で、真っ赤な一つ目と背中の触手と尾が特徴だ。
 本か何かで見た以外では実物は初めてだったが、今は遅刻ギリギリでそれどころではない。
 僕は謝るのもそこそこに、新しい教室へと走っていってしまった。







 ――新しいクラスになり、生徒の組み合わせも変わる事で、教室はわいわいとざわついていた。
 僕の席は一番後ろのひとつ前。しかも窓側の端っこ。
 前と横には口ぶりからして既に彼氏持ちらしい魔物娘さん達が座っている。
 僕の後ろには誰が座るんだろう、と思って待っていると、

「……オマエ、さっきぶつかってきたヤツか」

 今日の朝、下駄箱前でぶつかってしまったゲイザーの子が座ってきた。 
 とりあえずもう一度改めて謝ってみる。

「はんっ、今さら遅いっての。今日の分はこれから返してやるからな、覚えてろよ」

 そう言って彼女は不機嫌そうに自分の椅子に座った。うねうねと触手が動いている。何本かはあてつけのようにこっちをぎっと睨んだ。気がする。
 彼女が一番後ろの席になったのはたぶん、この触手が前の人の視界を妨げてしまうからだろう。
 ……今思うと、背中の触手はどうやって制服から出しているんだ?
 気になる。

「んだよ、じろじろ見んなっつの。そんなにあたしが目障りか?」

 そうじゃない、と否定しながら僕も自分の席に座る。
 それを知るのはもう少し警戒を解いてもらってからになりそうだ。







 ――次の日。
 クラス替え次の日の昼食はやはり賑わう。とはいっても、それは教室の外の話。
 教室はあくまで授業用、という雰囲気があって、教室以外の場所に食べに行く生徒がほとんどだ。
 それに魔物娘たちもそれぞれ生態が違うので、各々自分にとって心地のいい場所に行きたがる。
 なので、僕みたいにお弁当を持ってきて、それを教室で食べる生徒はかなり少ない。
 気が付くと、僕達の教室には生徒が三、四人残っているぐらいだった。

 後ろを振り向くと、彼女は手持ちぶさたそうに手元の瓶をいじくっていた。
 触手に付いた目の何本かはこっちを見ていたような気がするが、彼女自身が動く様子はない。
 僕は自分の座る椅子をくるりと動かして、彼女の机にお弁当を載せる。

「……おい、何のマネだよ」

 せっかくだから、一緒にご飯でもと思って。

「オマエな、あたしらが何食うか分かって言ってんのか?
 ベツにニンゲンの飯だって食えるけどよ、それじゃ腹の足しにならねえんだ」

 というと?

「だから、男の……精を取るってことだよ」

 あー、そうか、そうだっけ。
 ってことはもしかして、君の手元の瓶の中身は……。

「いいや、こいつは紛いモンだ。ゼンゼン味がなくてひでえもんさ。
 ……ところで」

 うん?

「わざわざあたしに、食いモンの話してきたんだ。
 カクゴはできてるよな?」

 え? えーっと、

「ばあか、冗談だよ。誰がオマエなんかに頼むかっての」

 ……そっか。
 とりあえず、ウチで作ったコロッケ、どうかな。自信作なんだけど。食べてみない?

「オマエ、人の話聞いてんのか……」







 次の日。
 昨日と同じで、彼女も僕も教室にいる。
 後ろを振り向くと、昨日と同じような瓶を持って彼女が座っていた。
 僕が見ているのに気づくと、眉をしかめて軽く睨んでくる。不機嫌にも見えるけれど、なぜかそうじゃない気がした。

「……あんだよ」

 僕は返事はせず、くるりと椅子を動かし、ゲイザーである彼女の机に弁当箱を置くという行動で答える。
 とりあえず、今日の朝焼いた鮭はどうだろう。 

「いらねえよ。食べるもんが違うって前言ったろ」

 にべもなく断られたので少し傷付いた。
 でもこちらのお弁当をちらちらと――特に触手の方の目はよく見ているので、全く興味がないという訳でもなさそうだ。
 食べたいかどうかは別だけど。

「……どうしてもってんなら、オマエのセイエキ、よこせよ」

 元々大きい声で喋る方ではなかったけど、いつもより小さい声。 
 え、ここで? と反射のように僕は聞き返す。

「ばっ、バカ! んなわけないだろ!」
 
 思わず大きな声が出てしまったらしい、慌てて彼女は周りに目線をやる。
 ばつの悪そうな彼女の顔を見るのは珍しい。
 もう教室にはほとんど人が残
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