「次の休み、遊園地に行こうぜ」
「え」
小さめのマンションの一室。リビングで、二人きりで炬燵に入った夜のひととき。
テレビに映る賑やかなテーマパークのCMを見ながら、”ゲイザー”である明依(めい)が言った。
「たしか……土日は予定、ないんだったよな?」
「ああ、うん、そうだけど」
一緒に炬燵に入っていた青年は、面を食らったような顔で明依の方を向いて返事をする。しかし彼女は背中から伸びる触手の目を何本か青年に向けるだけで、振り向くことはない。横顔しか見えないので表情も彼には窺えない。
その遊園地は最近また新しいアトラクションが出来たらしく、記念として様々な割引も行っていると宣伝していた。
「じゃあ、いいだろ」
件の遊園地は青年と彼女の住む家からさほど遠くはない。
自家用車もあるし駐車場も完備されているので、行くこと自体には問題がないだろう。
そう思いながらも「でも」と青年は聞き返す。
「急にどうしたの?前はそういうとこ好きじゃないって言ってたはずだけど……」
「べ、ベツにいいだろ、ばーかっ。どーせ好き嫌いなんて、コロコロ変わるんだからよ」
彼もそれ以上は問いたださず。
明依と呼ばれた少女風貌のゲイザーは、見ていた番組が終わると先に布団に潜り込んだ。
そして、時は休日になり。
「着いたよ、明依」
「あ、ああ」
遊園地の駐車場に車を泊めて外を眺めると、まだ午前の駐車場とはいえ、休日の人気テーマパークなので人(とおそらく魔物も)あちこちにいる。
髪を触ったり、そのぎざっとした歯で指をがじがじ噛んだり、そわそわと落ち着かない様子で明依は助手席の窓から外を眺めていた。
「大丈夫?」
「な、なに言ってんだよ。その、そういうんじゃねえよっ」
そう言われて明依は車の扉を勢いよく開ける。
同時に降りた青年は、いつもと違う彼女の様子にさらに気づいた。
「……あれ?」
いつも明依は少なからず人目があれば、大きなフードの付いたパーカーを目深に被り、自分の赤くて大きな一つ目を隠している。彼女も人化の魔法は使えるが、顔にある自分の一つ目だけはなぜかうまく誤魔化せないからだ。それは彼も知っていた。
だが、今はフードを外したまま外に出ている。
「な……なにぼーっとしてんだよ、早く行こうぜ」
「ああ、うん」
そう言って彼女は早足で遊園地の方に歩き出す。
しかし明らかに人の多い方向は避けたり、歩き方がどこかおぼつかなかったりで、それを後ろから見ている青年にも、彼女の動きが平静とは思えない。
慌てて追いかける彼の表情はどこか複雑なままだった。
「はぁー、……疲れた、全部回れてないのに、もうクタクタだ」
アトラクションをいくつも回って、遊園地にあるレストランで夕食を食べ、帰路に着く。
カーステレオが小さめの音量で鳴る車内で、明依は大きな瞼を閉じて助手席のシートにどっかりともたれていた。
「こういうとこ、一緒に行くの初めてだったからね」
「ああ……やっぱ慣れてないヤツには、キツイな」
そう、青年の目から見ても明依は、楽しんではいるようだった。
ジェットコースター、観覧車やコーヒーカップなどでは自然体な、意地悪さを備えつつも微笑ましい、いつもの彼女だったと思う。
だけどその節々にはどこか無理があって、虚勢を張っているようにしか見えない言動も確かにあった。
「ねえ、明依。どうして、遊園地に行こうと思ったの?」
「……ば、ばーか……そんなもん、ワケなんてねえよ。
そーいう、たまの思い付きってのも、あるだろ」
あからさまに動揺しつつも理由を話したがらない明依に、青年は一つ一つ思いつく不審点を挙げていく。
「いつもは家で遊んだり……外に行くとしても人の少ない場所、もしくは時間帯だった。
なのに急にテーマパークみたいな、どう考えたって人がたくさんいる所なのに、行こうって言ったよね」
「……」
「一番気になったのは……今日、ずっとパーカーを外してたことかな」
「ぐ……」
「それも自然に、って風じゃなかった。
俯いてることも多かったし、どのスタッフさんの方も見てなかった。子供がいる所では急に歩くのを早めたり、特に大きく顔を背けたり――」
「も……もう、いいだろっ!
何も見てねェようなカオして、じろじろヒトのこと観察してやがってっ……」
語勢の弱くなる明依の様子はやはりおかしい。
そう気づいた青年は、青信号が変わるその前に、彼女の方を見ながら問いかける。
「ちゃんと、話してほしい」
「う……」
「僕は君みたいに”暗示”は使えないし、察しもそんなに良くない。
言ってくれないと困るんだ」
「……てる……、分かってるよ……ばか」
車の走行音と音楽にかき
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