「ちょ、ちょっと待ちなさ――……あ……れ?」
ほんのちょっと不安はあったけど、”飛ぶ”のはうまくいったみたい。
せいせいどーどー、玄関から会社さんに入ったわたしは、ヘンな目で見ながらうるさく何か言ってくる受付のヒトを”静かにさせて”あげた。
「えーと、どうしよっかなー」
その話を聞いた時から文句を言おうと思って(言う前に怒られちゃったから止めたけど)、秋人のお父さんが働いてるせーやく会社の場所は聞いたことがある。
……でもさすがに、この建物のどこにいるのかまでは聞いてなかったな。
会社の中に入るのなんて初めてだから、ちょっぴりわくわく。結構キレイなトコだ。
でも土曜なのにみんな働いてるなんて、オトナってやっぱり大変なんだなあ。
「わっ?!だ、誰だ?!こんな子供が……それも変な仮装までして……。
おい、君!聞いてるか?」
あ、そうだ。ちょうどいいし、このお兄さんに聞いてみよう。
えーっと、こうかな。
『すみません、秋人くんのお父さんってどこにいますかー?』
「……え?あ……あきと?」
『あーそっか、苗字のほうがいいよね。水嶋さんっていうんだけど』
「みずしま……あ……私と同じ、八階の、開発第二部の係長……かも」
『八階かー、ありがと!あと、エレベーターってどこ?』
「あ、あっち……」
やっぱり、今の私ならみーんな思い通りにできるみたい。
しかもさっき試したら、顔の目だけじゃなくて、背中から出てる目で見てもおっけーだった。
これならいっぱい人がいるところに行っても大丈夫!
あ、ちょうどエレベーターが下りてきた。
「わっ?!な、なんだ?!」
『すいませーん、八階でお願いしまーす』
「え、あ……」
中に男と女の人がいたけど、どっちも素直にわたしの言う事を聞いてくれた。
この二人も”静かにさせて”、わたしは秋人のお父さんがいる部屋に向かう。
開発第二部……ほんの少し前の私には難しい漢字だけど、今ならちゃんと読めちゃうし、大体なら意味も分かっちゃう。
あーでも、道に迷いやすいのはいつも通りみたい……ちぇっ。
『あっ、すみませーん。開発第二部ってこっちで合ってる?』
「へあっ?!ば、ばけ……あ……ああ、合ってます」
『ありがとー!』
文字の入ったプレートがあるから、この扉の先が秋人のお父さんがいる部屋だ。
んー、でも社員証ってのがいるのかー。メンドウなことしてるなあ。
『あのー、さっきのおじさん。ちょっとシャインショウ?を貸してください!』
「う、あ……そ、それはできないよ。ここは大事なデータがいっぱいあって……」
『あ、頼み方が悪かったかも。
ちょっとこの部屋、入ってもらっていいですかー?』
「え、ああ……」
この人が入るのと一緒に……よいしょ。
「いやちょっと!ここは関係者以外入っちゃ……」
『わたしも関係者だよ。すっごく困ってるんだから』
「そ、そう……そうだったね」
『それで水嶋……えっと、水嶋係長さんって、どこにいるの?』
「えっと、はい……分かり、ます」
『よかった、じゃあそこまで案内して!』
「はい……」
うん、最初っからこうすればよかった。
声をかけた人についていくと、パソコンの前に座ってる人たちがヘンな目でこっちを見てくる。でもお仕事で忙しいのか、よゆーがないのか、幻覚でも見たと思ってるのか――わたしが何かするまでもなく、向こうの方からすぐに目を逸らしちゃった。
「こ、ここです……み、水嶋さん……あの、いいですか」
「はい、何か……うわっ?!」
「秋人のお父さん、お久しぶりでーす。なんかキンチョウしちゃうなー」
私自身も顔を合わせたり話したりすることがあったから、秋人のお父さんのことは覚えていた。
親子だけあって秋人に顔は似てるけど、ちょっと気難しそうな感じがする。でもやっぱり秋人みたいに優しい所もあるのだ。だからこそ、引っ越しを断れなかったのかも、だけど。
「き、君は……一体誰だ?どうしてこんな所に……」
『あ、この顔と姿だと分かりにくいね……や、分かりにくいですよね。
これからお父さんになるんだから、ちゃんとケーゴ使わないと。
明璃ですよー、あ・か・り。秋人くんと仲良くさせてもらってるオンナノコ、です』
「あ、あかり……?ま、まさか……あの……明璃ちゃんか?
こ、声だけは似てる気がする、けど……その目は一体……!?
それに……背中に、触手みたいなものも……いやそもそも、どうやって、このオフィスの中にまで……?!」
『うーんと、今は説明するのもメンドウなんで……。
とりあえず、聞きたいコト聞いて、イロイロ終わった後でもいいですよね?』
「う……っ?!……あ、ああ……なに、かな?」
ふんふん、わたしのコトを知ってる
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