「よいしょ……っと。うん、ばっちり!」
うきうきと嬉しさで――つい、秋人(あきと)の家まで”飛んで”来ちゃった。
ママにはちゃんと言ってきたし、やぶけたのに気づいてなかった服もちゃんと着替えた。今は白いスカーフ付きの長袖ワンピースと水玉のスカートで、私のお気に入り。この服なら秋人もすぐ分かってくれるかもしれない。
でもお化粧はあんまりしてない……うーん、見違えるほどイロイロ変わっちゃったし、しなくてもイイぐらい綺麗だったから、これからもしないかも。
「あきとー!いるー?」
秋人の家のチャイムを鳴らして、大声で呼んでみる。
土曜は塾に行ってる(まだ小学生なのに!)って聞いたけど、もう夜の九時だからきっと家の中にいるだろう。
そう思って少し待ってたら、慌てた足音の後に玄関の扉が開いた。
「こんな時間にどうしたの、明璃(あかり)……ちゃ……ん?」
あっ、この目つき……やっぱり、怖がってるのかな。
「あ……あれ?あ、あかりちゃん……だよね?」
「……秋人は、どう思う?」
声だけでもちゃんとわたしだって分かってくれたのは嬉しいけど、やっぱり。
そーいうの……昔からニガテだって言ってたもんね。
「え、えっと……いや、やっぱり明璃ちゃんだ……でも……」
「わたしじゃないように、見える?」
「それは、だって……め、目が……ひとつだけで……。
目玉が付いた、ぐねぐねしてる何かも……よく分かんなくて……」
「……わたしのこと、キライになった?」
「ち、違う!」
秋人が大声を出して、ぶんぶんと首を振る。
あんまり強く喋ったりしない秋人にとっては、かなり珍しいことだった。
「その大きな目は、なんだか怖い……けど。
嫌うなんて、そんなこと……ぜったいないよ!」
「……ほんと?ほんとに、ホント?」
「うん、でも……ど、どうして?なんでそんな姿に……?」
「それは……えーっと……あれ、なんでだっけ?
きれいで絵の上手なお姉さんに会って……あ、それがうつっちゃった、のかな?」
「か、体は大丈夫なの?苦しいとか、痛いとか……そういうのはない?」
さらに珍しく、秋人はわたしの額や頬を触って確かめてくれる。
小学校に入ってからは、イジをはったみたいに「べたべたしないで」とか「恥ずかしいからやめて」とか言ってるくせに……こういう時は、ちゃんと見てくれるんだ。
「んっ……そーいうのはないよ、とっても元気!
なんなら、出来ることもいーーーっぱい増えたもん!」
「えっ?ど、どういうこと?」
「うーんと……あっ……」
ぐう、とわたしのお腹が大きく鳴る。
どう言おうかな――と考えてたら、なんだかお腹が空いてきたみたいだ。
そういえば、もう夜なのにお昼から何にも食べてなかったなあ。
でも、なんか……変な感じ。
「えっと……明璃ちゃん、何か食べる?」
「ん〜、どうしよう。
お腹は空いてるのに、食べたいモノが思い浮かばない……なんでだろ?」
「思い浮かばない……?」
「あー、いや、違うかも。食べたいモノがないんじゃなくて、ごはんが食べたいんじゃないっていうか……あれ?うーんと、えっとね……」
「それは……良くないかも。やっぱり一緒に病院に行ったほうが……」
秋人がわたしのお腹にそっと触って、手を当てる。
食べ過ぎで太っちゃわないようには気を付けてるけど、やっぱり恥ずかしい。
……あれ?なんでだろう。
なんだかもっと……こうしていたい。
ううん、ほっぺや額に、おなかだけじゃなくて。
もっと、もっと色んなとこ、秋人に触ってほしい――秋人の色んな所、触りたい。
「ひゃっ……!ど、どうかした、明璃ちゃん?」
「……ん、」
気が付いたときには、わたしも秋人の身体を触っていて、抱きついているかと思うほどぴったりくっ付いていた。
こうしていると――とっても気分がいい。
なんでか分からないけど、お腹が空いてたような気分も少しずつ減ってく。
……あ。
「わかった!そっか、そーいうコトか!」
「え?えっ?」
「あー、秋人はお腹空いてる?」
「いや……さっき食べたから、僕は大丈夫だけど」
「ん!ならいいや、秋人の部屋、連れてって!」
「えっ……えっ?ど、どうして?」
「いいでしょー、もうなーんかいも来たことあるんだからー」
気の進まないらしい秋人の背中を押していきながら、強引に一緒に家に入る。
「でも、もうこんな時間だよ?明璃ちゃんのお母さんが心配したら……」
「そんなのいーの!来る前にハナシはしてきたし、そもそも心配されないぐらいにすごくなっちゃったから!わかった?」
「いや、ぜんぜん分からないよ……」
”お願い”をするのはもっと、大事なとき。
ここぞって時じゃないと、勿体ないもん。
…
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