「おい、カナメ。なんだよコレ? 『えろほん』ってヤツか?」
僕の名前を呼んだレティナの手には、僕が前に買ってきた成年向け雑誌があった。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、彼女は本を楽しそうに眺めている。
本の裏表をしげしげと確かめると、レティナの真っ赤な一つ目が僕を見つめた。
その赤色は、彼女の黒髪の下からでも見えそうなくらいに映えている。
ついでのように、レティナの背中から伸びた触手の先に付いた目玉たちも、僕をじっと見ていた。
「いや、えーっと……」
僕はパソコンデスクの椅子に座ったまま、歯切れの悪い返事を返す。
さっきからレティナが僕の家の本棚を漁っていたのでそんな気はしたが、なぜしたり顔なのだろう。そんな丁寧に隠してたわけでもないのに。
とはいえ、改まって突き付けられると非常に気恥ずかしいのもたしかだ。
「イイワケなんか言わなくていーよ、ちゃあんと参考にしてやるからさ。
どれどれ、オマエはどんなシュミしてんのかなーっと」
どこか楽しそうにそう言いながら、レティナは雑誌を開く。
ページを捲るたびに男女の睦言やら、恥部やら、情事やらが満載なその本を、レティナは興味津々に読んでいる。
なんとなくバツの悪い僕は口を挟めず、レティナの反応を伺うばかりだった。
「……わ、こんなコトまですんだ……へー……うわぁ、すっご……
ふーん……ふぅん……♪」
ぽつぽつと出る独り言を抑えることもなく、レティナは雑誌に夢中になっている。
そういえば前に自分で『あたしはオトコを襲う魔物だからな』と言っていたから、こういう物にレティナは心惹かれるのかもしれない。
かといって成年向け雑誌を、しかも目の前で女の子のレティナに読まれるのは困る。
それが僕の買ってきた物ならなおさらに。
「やっぱオマエ、こーいうのが好きなのか?」
「……まあ」
レティナがこっちをちらりと見た。僕は気恥ずかしさで視線を逸らしながら答える。
僕とレティナは向かい合っているので、ここから雑誌の中身は見えない。
が、この雑誌は、『女性が主導権を握るタイプの話』ばかりなのでまあ、そういうことだろう。
「そういやあたしと初めて会った時は、似たようなコトあたしがしてやったっけ。
あの時のオマエ、オンナみたいな声出してたよなぁ?」
ししっ、とイタズラを企む子供のように、白くて鋭い歯を見せながらレティナが笑った。
はっきりとは覚えてないが、どうも僕はどこかで彼女と体を重ねた事があるらしい。
でも、どんなふうに、何をしたのかはよく覚えていない。
「……その辺りのことは、あんまり覚えてないなぁ」
「あぁ、全部思い出したわけじゃなかったのか。
……ま、そっちのがいいな。覚えててほしくないコトも……ちょい、あるし」
なぜそれを僕が覚えてないのかは僕自身にもよく分からないが、覚えているはずのレティナはそのあたりの事をごまかしたがる。
僕も正直な所、自分が何をしたのか分からなくて怖いので、聞くに聞きにくいのだ。
にしても、あの成年向け雑誌をどう参考にするのだろう。
レティナが僕にソレをする所を想像すると、少しでなく顔が熱くなってきてしまう。
「おいおい、そぉんなカオしなくても、またおんなじコトしてやるって。
オマエはあたしの大事なエモノなんだからな」
とは言うけど、別に彼女が僕の身体を食べるわけでも、冷蔵庫にある僕の食べ物を食べるわけでもない。
なんでもレティナは『ゲイザー』という魔物で、『別の世界』から来たのだと、彼女自身が言った。
”魔法”だとか”暗示”だとかいう力も使えるらしいけど、それを目の当たりにしたことはない。
僕が彼女と会った時の事をはっきり覚えてないのは、その力のせいらしいけど。
続いて言うには、彼女は『人間の精』を食糧にするそうだ。
僕はまだ、はっきりとそれを彼女にあげた覚えがないけど、以前に僕から吸ったことがあるらしい。
「オマエの精はワリと美味かったからな」と言っては、たびたび僕にちょっかいを出してくる。
……こんなの、普通の人間なら到底信じられる話じゃないはずだ。
けど、自分でも不思議なくらいに、僕はこの現実をすんなり受け入れている。
「いちおう言っとくけど、あたしがいない間にこんなもん読んでヌイたりすんなよ。
ま、そんな気も起きないようにあたしが搾ってやるんだけどねぇ」
レティナの外見は確かに、この世界のどこにもいない生物の姿だろう。
それは顔の一つ目だけじゃなく、レティナの背中にある十本の触手と尻尾のような物もそうだ。
肌だって雪のように白いし、手足は何故か黒っぽい色をしている。
けど、僕はレティナを初めて見たときから、その神秘的な姿やいじらしい態度に惹かれていたのかもしれない。
だから疑問には思っても、僕は彼女の存在を否定しようなん
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