明かされた気持ち

「ここが係長の家ですか。らしいですね」
「・・・どういう意味?」
「いえ、さっぱりしているな〜っと」
私の部屋はワンルームだ。
簡単に説明すると、玄関から入ってすぐ右に台所がある。
左手の戸を開けるとユニットバスルームだ。
そして正面の戸を開けると部屋がある。
部屋にあるのはベッド、ローテーブル、タンス、本棚・・・確かに、私の部屋には必要最低限の物しか置かれておらず、『さっぱり』と言う言葉は間違っていない。
「・・・座って」
「あ、はい、どうも」
少し緊張しているのか、吉田はジャケットを脱いでローテーブルの近くに胡坐をかいた。
私はスーツのジャケットを脱ぎ、鎌の鞘を外してからキッチンにコーヒーを沸かしに行く。
と言っても、挽かれているコーヒー豆をフィルターに入れてドリッパーにセットし、お湯を注ぐだけなのだが・・・
コーヒーができるまでにちょっとキッチンを見渡してみる。
残念ながらアルラウネのシロップやハニービーのハチミツ、ホルスタウロスのミルクなどはない。
『・・・また何を考えているんだ』
首を振ってコーヒーを2つのカップに注ぎ、吉田のもとに持って行く。
「いただきます」
「・・・」
吉田がコーヒーをすする音だけが部屋の中に響く。
私はあまりコーヒーを口にできなかった。
せっかく家に招き入れて二人きりだというのに、何かしゃべりたいのに、何もしゃべれない。
そうこうしているうちに吉田がコーヒーを飲み終えてしまった。
「おいしかったです、ごちそうさまでした。これで失礼します。おやすみなさい」
あんまり長居しちゃ悪いですし、と吉田は言いながらスーツのジャケットを羽織り、吉田は帰る支度をする。
この様子だと彼は本当に帰るつもりだ。
嫌だ・・・もっと吉田といたい・・・もっと話たい・・・もっと・・・
背を向けた吉田を見ながら私は立ち上がったが、何をすべきか思いつかない。
『どうする・・・どうする!?』
そしてパニックに陥った私は、思考を魔物の本性に委ねていた。
すばやく吉田の前に回り込み、ベッドに押し倒す。
「なっ・・・係長、何を・・・!?」
吉田の抗議は耳に入らない。
次の瞬間には私は吉田のスーツのパンツと下着を鎌で切り裂いていた。
「あ〜っ! 俺のスーツ・・・じゃなくて、係長、もしかして繁殖期・・・」
「言わないで・・・」
マンティスがどんな種族か、吉田も大体分かっていたようだ。
だが、いざそう言われると自分が淫乱と言われたようで恥ずかしい。
そのくらいの羞恥心は残っていたようだ。
そして・・・吉田の顔が悲しそうに歪んだのを見て私に理性が少し戻ってきた。
吉田が口を開く。
「係長・・・あこがれの上司とエッチできるのはうれしいですけど、繁殖期と言う理由で襲われたりなし崩しにシたりするのは・・・」
「違う、そうじゃない!」
私の口から、それまで発したことがないような強い口調の言葉が飛び出す。
吉田に嫌われたくなくて、誤解されたくなくて必死だった。
そんな自分に自分でびっくりしたが、すぐに落ち着きを取り戻して話しかける。
「確かに私は繁殖期・・・だけど、その・・・」
言葉が迷子になる。
自分でも分からない感情をコミュニケーションが苦手なマンティスが表現するのは、コカトリスが男を襲うのと同じくらい難しいことだ。
私は黙ってしまうが、吉田はおとなしく待ってくれている。
普段、吉田にあまり人を待たせるなと言っている手前、私が彼を待たせるわけにはいかない。
私は分かる気持ちだけを伝えることにした。
「初めてのマンティスと違って・・・・誰でもいいってわけじゃない・・・あなたがいい。ただ繁殖したいわけじゃない。あなたが愛しい。昨日から・・・」
「き、昨日から・・・」
吉田はちょっと苦笑した。
「・・・気付いたのは昨日からだけど、あなたが愛おしい。だからあなたが・・・」
欲しい・・・と言うと淫乱みたいで気が引けた。
言葉の代わりに再び鎌を振り上げ、今度はジャケットとワイシャツを切り裂こうとする。
だが、吉田の顔が急に明るくなったので、思わず手を止めた。
「良かった、両想いだったんですね?」
「・・・?」
そう言えば、さっき私のことを『あこがれの上司』と言ってくれていたか。
「俺、実は係長が来る前まではモチベーションが下がっていて、だらけ気味だったんですよ」
吉田が半身を起しながら急に打ち明け出した。
「けど、係長がこの課に来た時、一発で好きになっちゃったんですよ。『俺、この人が上司なら頑張れる!』って・・・」
あの元気な返事ときびきびした行動は、そのモチベーションから来るものと、そして少しでも私に覚えられようとしたものだったらしい。
「なんか無茶苦茶なシチュエーションになっちゃいましたが・・・係長、いえ、梅軒先輩・・・俺は先輩が好きです。付き合ってくださ
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