動き出した気持ち

朝だ。
目を開き、ゆっくりと体を起こす。
あまり良い目覚めとは言えない。
少し熱っぽく、身体に力が溜まっているかのような感じ・・・繁殖期だ。
またきたか、と小さく鼻を鳴らす。
ベッドから起き、タンスを開けてブラとショーツを身につけた。
無意識のうちに上下おそろいの魅惑的な下着をつけていることに気付き、また嘆息させられる。
『落ち着け、情けない。いつも通りだ、いつも通り・・・』
いつも通りにしなければいけない・・・
繁殖期だと悟られて変な男に言い寄られるのも癪だ。
魔物娘だからと言って誰でもいいわけじゃない。
努めていつも通り、歯を磨き、ハニートーストと目玉焼きとソーセージの朝食を済ませる。薄く化粧をし、自分の鎌に鞘をし、白いブラウスとグレーのスーツを身にまとい、アパートを出る。
「・・・・・」
三度嘆息する。
やってしまった。
無意識のうちにストッキングをパンストではなく、ガーターストッキングにしてしまっていた。


『しっかりしなければ・・・』
会社で係長の席に座り、頼まれた文章を打ちながら私は自分に言い聞かせる。
係長に就いてから数カ月たち、上に立つ仕事にも慣れてきた。
部下もそれなりについてくるようになってきている。
繁殖期だから集中できないなんて言い訳は通用しない。
そう言えば、この課の係長に就いてから初めての繁殖期だ。
「係長、頼まれていた書類ができました」
声をかけられ、主を見てみる。
吉田だった。
今日はライトグレーのスーツを着、紺色のネクタイを締めている。
短く切られている髪をツヤのあるワックスか何かで立てており、白い歯を見せてにこやかに笑っている。
爽やか・・・まさしくそんな言葉が似合っていた。
・・・何を私は観察しているんだ。
「ありがとう」
考えていたことを振り払うように私は短く礼を言い、書類を手に取る。
互いの手が触れた。
「・・・・っ!?」
思わず私は火傷でもしたかのように手を引っ込める。
「・・・係長?」
くそ、繁殖期とは言え、なんだこの反応は・・・情けない!
「顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」
自分の頬に手を当ててみる。
熱い・・・恥ずかしい!
吉田の様子を見てみると・・・彼も少し頬を赤くしていた。
「・・・」
私は無言で手を伸ばし、吉田の書類を手に取った。
「・・・行って」
「あ、はい。失礼します」
吉田が去って落ち着いた後、私は彼の書類に目を通した。
・・・
・・・・・・
ん!?
ミスタイプを発見したが・・・本当にミスタイプか?
繁殖期でボーっとしているから見間違いでもしたのかと思い、目をこすってもう一度見てみる。
間違いない、ミスタイプだ。
『しかも・・・なんてミスをするんだ!』
私は彼を呼ぶ。
「吉田・・・」
「は、はいっ!」
ぽつりとした私の呼び方でも、吉田はいつも通り元気良く返事をして神速の勢いで私の机にやってくる。
「・・・このミスタイプは・・・何?」
私が指さすところにタイプされている文字は・・・
【受領淫乱】
本当は【受領印欄】のはずだ。
「ひええっ!? すんません! すぐ直してきます!」
「・・・ちゃんと他のところもチェックしておいて」
こつこつと鞘に納められている鎌で机を軽く叩きながら私は言う。
次こんな破廉恥なミスをしたら・・・服だけを・・・って、私はまた何を考えているんだ!?
「はっ、はい!!」
ビシッと直立して気をつけをしてから彼は神速の勢いで自分の机に戻り、パソコンに向かった。
私はその様子を漫然と見る・・・って、何私は彼を目で追っているんだ。
時計をちらっと見てみる。
2分は見ていたようだ、まったく・・・
顔にまた熱を感じながら私は仕事を再開する。


夜・・・
私はベッドについていたが、まだ眠っていない。
火照っていた身体はぬるめのシャワーでは納まらなかった。
今夜も自分で自分を慰める時間が始まる・・・
「ん・・・はう・・・うあ・・・」
仕事中に抑圧されていた反動か、もうすでに私の股は濡れている。
胸を左手でつかんで頂点を指先でいじりながら、右手を下腹部に伸ばす。
『えっ? 何これ・・・?』
いつもより濡れている気がする・・・
「ひっ・・・あっ・・・!?」
表面を撫で上げただけで蜜がたっぷりと私の指に絡みつき、身体が快感ですくみあがる。
『どうして・・・? 今まで・・・今までこんなことなかったのに・・・!?』
10年近く続けてきた自慰だ。
自分の身体の事は自分が良く分かっていたつもりだったのに・・・こんなにまで感じたことはなかった。
なぜ・・・
「くっ・・・ふうぅん・・・!」
指を一本、膣内に潜り込ませるだけでぞくぞくするような快感が這い上がってくる。
二本入れるともうたまらない。
身もだえしながらいつも通り、私は初めて交わった男のぬくもりを思い出そうとした。

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