「♪ こんにちは『こんにちワーウルフ』 ありがとう『ありがとウンディーネ』♪」
一人のセイレーンの少女がスキップをしながら歌っている。
今歌っている歌はハーピートレーラーで働いていて最近結婚したセイレーンのあるお姉さんより教えてもらった歌だ。
「♪ まほうのうたでヤラシイなかまが ぽぽぽぽ〜ん♪」
明るい歌詞だが、それを歌う少女の顔はなぜか晴れない。
実は彼女は少し前に友達の男の子と喧嘩した。
小学校からの帰り道を低空飛行していたら、曲がり角から出てきたその子とぶつかってしまったのだ。
「きゃっ!?」
「わっ、ごめん!」
互いにケガはなかったが、ぶつかった拍子に彼は持っていたポップキャンディーを落としてしまった。
「あ〜、ぼくのキャンディー・・・」
舐めかけだったキャンディーは砂まみれになってしまい、もう食べられそうにない。
少年は肩を落とした。
黙っていたら、じとーっと少年がセイレーンの少女を見る。
不快な目に彼女はツンとした声を上げた。
「な、なによ。べんしょうすればいいんでしょ!?」
少年が持っていた飴は10円かそこらで買えるものだ。
セイレーンの少女が今持っているお小遣いでも買える。
しかし、その言葉を聞いて少年の表情が不機嫌なものから一気に激怒のものに変わった。
「そ、そう言う言い方はないだろ!?」
「なによ! モンクあるの!?」
「〜〜っ! このバカー!!」
子どもゆえに表現の仕方を知らず、興奮していたこともあり、少年は怒りを爆発させて怒鳴る。
「ひっ!? う・・・ぐす・・・うえ〜〜〜ん!!」
突然怒鳴られて、セイレーンの少女は泣きだしてしまった。
泣きだしたことにびっくりしたのか、少年はその場から逃げるように走り去った。
「わけがわからないよ・・・ふん! もうアイツとはあそばないもん!」
いつの間にか歌うのをやめ、むっつりとした表情でセイレーンの少女はパタパタと低空飛行をする。
少女がまた曲がり角に差し掛かった時、また誰かにぶつかった。
「きゃっ!?」
「きゃ!」
ぶつかったのはカラステングの女性だった。
何のためかは分からないが水を汲んだバケツを持っており、ぶつかった拍子にその水はすべてセイレーンの少女にかかった。
「・・・ちゃんと前見て歩きなさい」
カラステングの女性は冷たく言って去ろうとした。
「ちょっと! おねえさんひどいよ! つめたいよ! あやまってよ!」
喧嘩をしてもともと不機嫌だったうえ、水をかけられた少女は声を張り上げる。
すると、カラステングの女性は脚を止めて振りむいて笑った。
あまり気持ちのいい笑顔ではなかった。
「おやぁ、そういうあなたはちゃんと謝れる子だったかなぁ?」
「・・・・あ!」
カラステングの女性の言葉で少女は気付いた。
なぜ少年があそこまで怒ったか・・・
『キャンディーをおとしたことじゃなくて、あやまらなかったことにおこったんだ』
目の前がパーっと開けた気分だった。
「おねえさん、ありがとウンディーネ!」
そう言ってぺこりと少女は頭を下げ、飛び立った。
喧嘩した少年に謝るために、空を駆ける。
最近教わった歌を、自分なりにアレンジしながら・・・
♪ こんにちは『こんにちワーウルフ』 ありがとう『ありがとウンディーネ』
♪ ごめんなさい『ごめんなサイクロプス』
♪ まほうのうたでヤラシイなかまが ぽぽぽぽ〜ん♪
おまけ
「はぁ・・・はぁ・・・」
セイレーンの少女と喧嘩した少年は走って、古びた神社にたどり着いた。
何かあると少年はそこでお参りをし、懺悔と願い事をするのだった。
2回手拍子を打ってぼそぼそと呟く。
「かみさま、ぼくはおんなのこをなかせてしまいました。ただひとこと『ごめん』っていってほしかったのにいわなかったから、ついおこってなかせてしまいました」
ぼそぼそしていたつぶやきは、やがてはっきりとした大きな声に変ってきた。
「かみさま、あのことなかなおりさせてください! あのこがあやまったらぼくもあやまります! ぼくはいまからあのこをさがしにいきます!」
願い事を言い終えてから少年はぺこりと頭を下げ、その場を走り去った。
その様子を見ていた影がひとつ・・・
「ふ〜ん・・・なるほど」
一人の魔物娘が木の上から少年の話を聞いていた。
さらに申し訳ないと思いつつも少年の記憶を覗き見て、何があったかを知る。
「本当は当事者同士で解決するのが一番だけど・・・ここで仲をこじらせるとずっと引きずりかねないからねぇ・・・ここは私が一肌脱ぎますか」
ばさりと羽音がし、黒い羽根が一枚舞い落ちた。
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