木曜日の昼過ぎ・・・
ブイ〜ン ブイ〜ン
枕元においてあった携帯電話が振動音を立てる。
「う〜〜〜む・・・」
唸りながら俺は携帯を取った。
俺の名前は村木 陽太。
高校2年生だ。
部活はサッカー部に所属している。
そんな俺が平日の昼過ぎだというのにベッドで横になっている理由・・・簡単だ。
風邪を引いて寝込んでいたからだ。
熱は下がってきたが、まだ頭はボーっとするし、身体はだるい。
携帯のバイブ音でもそんな体調では頭に響いた。
今は眠っていなかったが、午前中はかなりこれでうつらうつらしていたところを邪魔された。
携帯の用件のほとんどはお見舞いメールだった。
お見舞いメールは悪くないが、つらい。
それに加え、女子の媚びた文面は調子が悪くて気が立っている俺には正直うざかった。
「・・・誰だ」
サブディスプレイには今回は「本田 萌黄」と表示されている。
サッカー部の後輩で、ホーネットだ。
昨日の夜、突然の通り雨で萌黄が学校の昇降口で立ち往生していたためカサを貸したのだが・・・
メールを見てみる。
『起こしてしまったらスミマセン。昨日はありがとうございました。』
強気、凶暴と称せられるホーネットらしからぬ丁寧な文面だ。
関係が先輩後輩だから、当然ではあるのだが・・・
『でも今日、先輩が風邪を引いて休んだと光から聞いて・・・私がカサを貸してもらって、先輩が濡れちゃったからですよね、スミマセン』
別に謝らなくていいのにと俺は考える。
好きで俺は萌黄にカサを貸した。
いや、あれは押し付けたと言ったほうがいいか?
ちょっと相合傘をする勇気はなかった。
ちなみに「光」と言うのは俺の妹で、萌黄のクラスメートだ。
メールは続いている。
『カサも返したいですし、放課後、先輩の家にお見舞いに行ってもいいですか?』
気持ちは嬉しいが、うつる可能性がある・・・だが一人ベッドで横になっているのもつらい。
父親は仕事、母親は10年前に離婚したためいない。
妹は学校にいるため、今家にいるのは自分だけだ。
一人で粥を温めたり飲み物を取ったりするのは辛い。
妹が帰ってくるのを待てばいいだけの話なのだが・・・
『頭が痛い・・・』
俺は眉間をもんだ。
もう長く考えられない。
ボーっとする頭で俺は短く返事を書いて携帯を枕元に放り投げた。
『いいよ』
ぶっきらぼうなメールになってしまったが、少なくとも萌黄が来てくれるのは嬉しかった。
むしろ来てもいいと言った理由はそれだった。
16時ごろ、玄関のチャイムが鳴った。
「・・・・・・」
ここは自分が出なければならない。
ベッドから出てベンチコートをはおり、重く感じる身体を引きずってドアを開ける。
「お邪魔しま〜す」
肩に学生鞄と愛用の槍を担ぎ、片手に物が詰まったスーパーのビニールの袋を、もう一方の手に貸したカサを持った、制服姿の萌黄が入ってきた。
文字通り、大急ぎで飛んできたのか、息が少し上がっていて、背中は翅を出すためにフリーになっている。
「どうぞ・・・光は?」
「ちょっと買い物とかいろいろ用事があるって言ってました」
・・・じゃあ彼女が持っているビニール袋はなんなんだ?
疑問に思ったが頭が重たくて何も考えられなかった。
「先輩、カサ、ありがとうございました」
「いえいえ・・・どういたしまして ・・・すまんがまたベッドで横になるわ」
「分かりました。何か欲しいものとかありますか?」
「あ〜〜・・・」
鼻詰まりを起こした間抜けな声をだして考える。
「・・・ちょっとお腹すいた。それから温かい飲み物が欲しい」
萌黄の言葉に甘えてリクエストする。
「分かりました。ちょっと待っててくださいね。キッチン借りま〜す」
にっこりと笑いながら萌黄は楽しそうにキッチンに向かった。
「お待たせしました、ご主人様♪」
数分後、お盆に紫色のゼリーと湯気を立てているマグカップを乗せて萌黄が部屋に入ってきた。
しかし、なぜかメイド言葉・・・
「・・・なんだ、それは?」
「いや、『お待たせしました』って言ったらついやってみたくなって・・・」
「・・・なんかシチュが違うぞ」
「じゃあ、ナースの真似をしたほうが良かったですか?」
萌黄が目を細めてクスクス笑う。
後輩ではあるのだが、こうやってS気をだしたり先輩をからかったりするのはやっぱりホーネットらしい。
「あ〜〜・・・」
萌黄の言葉に、ナースだったらなんて言うんだろうと俺は考えたが、風邪を引いた頭では何も考えられなかった。
「はい、ブドウゼリーとホットレモネードです」
「プリンじゃないのか?」
「プリンだとレモネードが渋く感じちゃうので・・・」
萌黄が微笑む。
「食べさせてあげましょうか?」
「そこまで重病じゃねぇよ」
「いいじゃないですか。ほぅら、あ〜ん・・・」
俺は苦笑しながら半身を起こし、萌
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