悪役令嬢に転生しちゃったので破滅ルートを全力で回避しようとしたら異分子のXXXが入り込んだせいで国は滅亡しちゃいましたけどみんな幸せです

 皆様は前世というものをお信じになられますか? 私? ドレッサーの前でまどろんでいて目を覚ましたたった今、信じるようになりましたわ。
 ごきげんよう、私の名前はシルフィーユ・アンジュルムと申します。悪役令嬢ですわ。
 え、自分のことを「悪役」というのはなぜなのかですって? 仕方がないですわ。そういう役回りですもの。
 ……もうちょっとでいいので、砕けた口調で話をさせてください。私の"前の名前"は天野風花……まだ全部は思い出せませんが、ある程度前世のことは思い出してきました。そして気付いたのです。この世界は、私が前世で良くやっていたゲーム……最初の文字がオで最後の文字がメで、真ん中の文字がトの、三文字のゲームのジャンル……その中で攻略対象が少ないけどストーリーはなかなか良くできていると言われたゲーム、『聖なる力と選択の王冠』というゲームの世界だと。そして私は、そのゲームの悪役令嬢、シルフィーユ・アンジュルムに転生してしまったのだと。
 このゲームは、孤児院の出で貴族の養子となったケイト・エルウィンという女性が主人公で、三人の王子が攻略対象のゲームです。すなわち、優しくて誰からも好かれる優雅な第一王子のエドワード、少しやんちゃだけどたくましくて爽やかなリチャード、シャープなメガネがチャーミングなクール系のチャールズ……この王子の好感度を高めて結婚を目指すのが『聖なる力と選択の王冠』というゲームです。
 さて、その主人公のケイトのライバル的な存在がいます。それが私、シルフィーユ・アンジュルムです。孤児院の出のケイトをいつも嘲笑し、陰湿な嫌がらせをして、攻略対象の前で恥をかかせたりして攻略対象の好感度を下げ、妨害しようとしてくる存在です。はい、お手本のような悪役令嬢です。
 シルフィーユは嫌なキャラではありますが誰もが振り返るような美貌を持ち、スタイルも抜群です……いま、自分で実際に胸を触ってみてますが、前世のぼんやりとした自分の記憶にある大きさよりはるかに大きくて微妙な気持ちになります。手におさまりきりません。
 ドレッサーの鏡に映っているのは、ゲームでも見たあの姿……ツンと鋭くつり上がった強気そうな目と眉、少し薄めの唇、陶磁器のようなつややかな肌……髪は色素が薄めで鎖骨のあたりでは螺旋状にまかれております。いわゆる縦ロール。
 そして、そんな美貌の持ち主のシルフィーユには婚約者がいます。第四王子のジョセフです。背が低くて自信がなさそうでおどおどしていて、何でもできるけど何か一つとなるとどうしても兄たちには敵わず、シルフィーユに一言きつく言われるだけですぐに引っ込んでしまう、影の薄いキャラ……この手のゲームとしては憧れるようなキャラではなく、攻略対象ではありません。
『いや、とは言うもののゲームをやったときも思ったけどシルフィーユ、贅沢すぎるわよ……』
 優しいし、王位継承権は兄たちよりは後ろになるかもしれないけど十分すぎる身分になるし、何が不満なんだと言いたいです。でも、シルフィーユの性格的に、自分より出自が悪いケイトが、自分より条件が良い王子と結婚するのが我慢できなかったのでしょう。前世の記憶を思い出し、魂がそちらに塗り替えられつつある私としてはちょっと理解できないのですけど。
 さて、そんなシルフィーユですが……主人公が誰かと結ばれるハッピーエンドになった場合はだいたい、シルフィーユは因果応報とばかりにひどい目に合います。
 はい、困りました。私は今、シルフィーユに転生したということを思い出してしまいました。このままぐずぐずしていると、ひどい目にあってしまいます。転生を自覚して、気持ちも本来のシルフィーユよりは前世のものによりつつあるのに、あんまりです。
 カレンダーを見てみると水の月の10日……ゲームも後半戦に差し掛かろうとしているころです。もう十分、ケイトのヘイトが溜まっているような状況なので、彼女が誰かと結ばれると私はひどい目にあうことでしょう。なんとかしなければ……
『まず、今この世界がどのルートを進んでいるかを把握する必要があるわ』
 ぐるりと部屋を見渡したその時、ドアをノックする音が聞こえました。どうぞ、と声をかけると使用人が入ってきました。
 前世のことを思い出して衝撃を受けて、シルフィーユとして暮らした19年の記憶が飛びかけてましたが……ああ、彼女は私の着替えや化粧を手伝ったりしてくれるタリアータでした。ゲームには出てきません。しかし、そのような人はごまんとおりましょう。下着に関しても彼女は関わっておりますので、シルフィーユの人生の中でおそらく一番私の肌を見ている人間です。そしてそれだけシルフィーユが信頼している部下でもあります。
「居眠りされていましたか、お嬢様?」
「ごめんなさいね、タリアータ。 ……ねえ、
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