ピピピピ! ピピピピ!
「うーん……もう8時かぁ……」
唸りながら僕はスマートフォンのアラームを止めようと腕を伸ばした。途端にその腕が寒気に包まれる。
「うわっ、寒すぎでしょ……」
目覚ましをオフにし、さらにスヌーズ機能も切る。さらに手近に置いてあるストーブのスイッチを押してオンにした。大学生にしては購入費も維持コストも贅沢過ぎる逸品なのではあるが、今年の冬は寒いときは本当に寒かった。買わざるを得なかった。タイマー機能をつけて自動的にストーブがオンになるようにするという手もあったのだが、ここまで寒くなるとは思わなかったのだ。
外はしとしとと雨が降っている。冷え込んだ理由はこれだろう。スマートフォンで気温を調べてみる。最高気温は9℃と出ている。いやいやいや、昨日の最高気温は22℃だったじゃないか。昼は夏手前くらいの気温じゃないかと思うくらいに暑かったのに今日はこれだ。ここ最近の気温の乱高下は溜まったものじゃない。
「ううう……さぶさぶ……」
腕を引っ込めて部屋が温まるまで僕は潜り込むことにする。講義は9時から。正直、あんまり寝ている余裕はないのだが、この寒さに彼女のぬくもりは魅力的過ぎた。
「ねー、琉雅(りゅうが)、なに見てたの?」
さて今さっき、僕は「彼女」と言ったか。そのとおり。僕には恋人がいます。興味津津といった感じで僕のスマホを覗き込もうとしている。背中には大きくて柔らかな感触が……
狹間田佳織……ちょっといたずら好きなところもあったりするけどそれは寂しがり屋な裏返しの性格で、実は心優しく温かい、僕の彼女。
ちなみに温かいのは心だけじゃなくて身体も温かい。彼女に抱きついているととても気持ちがいい。そんな彼女も僕にぎゅーっと抱きついている。身体と、巨大な葉で。
お察しの通り、僕の彼女は人間じゃない。かと言って、アルラウネやドリアードでもない。僕を包んでいる葉が巨大なハエトリソウみたい、と言えばピンとくるだろうか。そう、僕の彼女はマンイーター……ちなみに挟葉タイプ。
植物はあんまり温かい印象はないかもしれないけど、彼女たちは植物じゃなくて植物系の魔物娘……女の子らしく柔らかくて温かくて気持ちいい。そんな彼女と抱き合いながら、彼女にもかけられるような大型の毛布をかぶって寝れば、少しも寒くはない。しかし、ご覧の通りそれはあくまで彼女に包まれている状態での話なので、外は寒い。
あーあ、昔むかしの話、勇者と魔王との時代だったらずっと彼女に包まれたまま一日をぬくぬく過ごしていたのになぁ……残念ながら僕たちは大学生なので、講義に出席しなければならない。
時間はいつのまにか8時10分になっている。朝の10分というのは大きい。いくら僕たちが住んでいるアパートが大学に近いからと言っても、そろそろ危ない時間だ。早く起きて、シャワーは絶対浴びて、朝ごはん食べて出なきゃ……出なきゃ、いけないのに……
「行っちゃやだ〜、寂しぃ〜!」
顔を曇らせる佳織。そ、そんな顔をされるとものすごく申し訳なくなる。概してマンイーターはさっき僕が紹介した通り、寂しがり屋だ。先ほどのように、勇者と魔王との時代だったら、マンイーターとその伴侶はずっと繋がり合っていたように。
「いいじゃん、寒すぎるし……もうちょっと日がのぼって暖かくなってから出ようよ〜」
悪魔めいた提案をしてくる佳織。曇った顔から一転、にぱっと太陽のような笑顔に僕の心は揺れる。うう、それでも、それでも……
「って佳織、何しているの?」
「何って、寒いから温めあおうとしているに決まってるじゃん。おしくらまんじゅうよ」
僕に抱きついたまま、身体をゆする佳織。互いに動き合って温かくなって、布団の外に出ようとする作戦らしいけど……それは僕にとってとても都合が悪い。
……勇者と魔王の時代の前、魔物娘ではない魔物と血で血を洗っていた時代、マンイーターはそれはそれは恐ろしい魔物であった。詳細はハエトリソウと同じで自明の理。巨大な葉で捉えて消化液を出して……以降は割愛させていただく。
語るも恐ろしかった魔物は、淫魔の要素ももった魔物娘に変わると違う方向に恐ろしくなった。消化液は溶かすものはご丁寧に服や鎧だけに限定された。代わりに揮発した粘液は人間男性をエッチな気分にさせたり、液自体で快楽に弱くしたりと、魔物娘に都合の良い代物になった。その消化液は、巨大な葉からはもちろん、マンイーターの身体からもたっぷりと分泌される。
そんなマンイーターの彼女と抱き合って眠る僕は彼女の粘液だけまとって眠る……つまりは全裸だ。今も全裸で、消化液でべとべとだ。朝、絶対にシャワーを浴びたい理由はこれである。
そして身体がべとべとしている以上の問題が今、起きようとしている。僕も佳織も消化液でぬるぬる、しかも僕
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想