僕には好きな人がいた。同じ職場の先輩で、ドラゴニュートの内田ほのかさんだ。僕が福来観光に入社してから、仕事でいろんなことを教えてくれた先輩だ。美人で、スタイルも良くて、優しくて……入社してからのすぐの接近に僕は正直、夢を見ていた。
けど、夢は所詮夢だ。僕は会話のほんの端っこから、ほのかさんが結婚していたことを知った。その後で裏も取れた。魔物娘は相手がいれば、まず振り向くことはない。僕の初々しい職場初恋はこれで終わった。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ちょいちょい彼女は僕をご飯に誘ってくれる。もちろん、職場の他の仲間も一緒のことが多いけど、僕を優先して誘っている印象はあるし、たまにサシ飲みを誘われることすらあった。それが僕を混乱させ、今の恋はちゃんと諦めているはずなのに、次の恋に踏み出せなかったりする。
極めつけが今日である。
――ホームパーティーするから、おいでよ。まあ、パーティーって言っても鍋だから宅飲みとそんな変わらないかもしれないけどさ。
全く気がない異性を普通、家に誘うだろうか? けれども魔物娘だから、気があるなんてことは絶対にない。それとも、もしかしたら当てつけなのだろうか? いやいや、あの先輩に限ってそんな意地悪いことはしないだろうし、そんなことを考えるとか失礼だろう。僕はぶんぶんと頭を振って、空を仰いだ。
空は、目の前でそびえ立つ高層マンションで僕の視界からは半分ほど阻害されていた。この15階建てのマンションに住んでいるとのことだ。
お土産のオリーブの瓶詰めを抱えて僕はエレベーターに乗り、6階で降りる。言われていた部屋番号と、内田の名字を確認してインターホンを押す。
「はーい」
「七瀬です」
「はいはーい、今開けるね」
ほどなくして鍵が開く音がして内側からドアが開いた。そこには、ブルーのタイトデニムと、白のブラウスを着ており、パーティーの料理の準備のためかエプロンをしているほのかさんが居た。……よく考えれば、ほのかさんの私服は始めて見た気がする。
「いらっしゃーい、どうぞ上がって」
「……お邪魔します。これ、お土産です。つまらないものですが……」
「えー!? わざわざいーのにぃ……でもありがとう」
ほのかさんに手招きされ、僕は靴を脱いで部屋に上がる。リビングに通されると、キッチンでは旦那さんが料理をしていた。
「どうもどうも、七瀬さん。ほのかの連れの内田達也です」
「どうも、七瀬です。お世話になっております」
この人が僕の憧れの女性を射止めたのかと思うと、チリチリと胸の奥が焼ける。彼から視線を反らそうとぐるりと周囲を見てみる。
「先輩、あと誰が来るんですか?」
さすがに夫婦と僕だけなんていうのは居心地が悪い。とは言うものの、テーブルの様子だけ見るとあと一人が限界だと思うのだけど……
「私の妹のまどかが来る」
「え、妹さん?」
そう言えば妹がいると言っていたような気がする。確か21才と、魔物娘ゆえ年が離れていて7才の妹がいると聞いていた。7才の妹が一人だけで来るとは思えないので、たぶん上の方が来るのだろう。
話をしていると、インターホンが鳴った。ほのかさんが返事をすると、似たような声が返ってきた。
「お姉ちゃん、私」
「私私詐欺はやめなさい。はいはい、まどかね。いらっしゃい」
軽くじゃれ合いをしてほのかさんは、妹さんを迎えにいった。まもなくして、二人揃ってやってくる。なるほど、たしかに姉妹だ。ちょっと違うけどよく似ている。
種族は、親がエキドナだったり、あるいは養子とかじゃなければ、ドラゴニュートの妹はドラゴニュートである。邪竜の眷属の証である、黒と紫の尻尾が期限良さそうに揺れていた。
二人ともくりっとした鈴のように丸い目に、強力な魔物娘独特の赤い瞳をしているが、妹のまどかさんの方がちょっとだけ釣り上がり気味かもしれない。あるいは、まつげのメイクが強めだからそう見えるのかもしれない。顔つきも少し、やせているように見える。髪型は大きく違っていた。ほのかさんはふんわりとした、ソバージュのボブにしているのに対し、まどかさんもふんわりした髪質だけど、長さは肩甲骨くらいまでありそうだ。身体つきも姉妹ゆえにているように見えるがこれはジロジロ見るのは失礼だろう。
服装は、黒の革ジャンと、ピンクのリブニットだがそのニットは胸元がざっくりとVの字にカットされており、深い胸の谷間があらわになっている。胸元には可愛らしいハートのペンダントが下がっていた。下は透け透けの生地の下に本生地がある白いスカート……チュールスカートと言ったか。淡色にまとめられて可愛らしさがありつつも、アウターでしっかりと締めている格好であった。
「あ、七瀬さんはじめまして。姉がお世話になっています。妹の竜井まどかです」
「ど
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