第三章 暴乱と再会

「うそだろ!? これも来たときにはなかったはずだよ!?」
 セインが叫ぶ。サフィもメープルも頭を抱えていた。
 アンバーの犠牲を無駄にしまいとセインたち一行はもと来た道を走っていた。そこで彼らを待ち受けていたのは、来るときにはなかったはずのトラップや障壁の嵐であった。殺傷能力こそないものの、妨害としては一級品なものばかりであった。
 謎解きや仕掛け解きが必要なものはメープルが頭をひねりところどころでセインも加わって解き、物理的に破壊が必要なものはサフィとセインがそれぞれの武器を振るった。
 そして立ちふさがる何度目か分からない扉。押すことも引くことも横にも上にもスライドすることもできない、妨害のための扉。金属板で強化されていないためまだ壊せる見込みはあるが、獲物を足止めするには十分な仕掛けである。
 試しにメープルが炎の魔法で焼き払おうとするが、表面が焦げただけであった。
「……これも怖そう。サフィ、行けそう?」
「ああ、頑張ろう」
 不敵に笑ってみせるサフィだが、その鎧の肩当ての下の肩は傷だらけのはずだ。訊ねているセインがそうなのだから。
 二人は扉の前で立ち、掛け声で同時に体当たりをするセインとサフィ。みしりと扉が音を立てて軋んだ。
 その様子を少し離れたところで見るアンバー。魔術師であり非力は彼女はこの体当たりには参加できない。もどかしげに彼女は手足をぱたぱたと動かした。
 そして彼女がもどかしく落ち着かない思いなのはもう一つあった。背後を振り返る。洞窟最奥に残してきた双子の姉のことが気にかかる。もちろん、セインやサフィも心配しているだろうが、肉親でありかつ今はやることがないため余計に気になってしまう。せわしなくメープルは背後を何度も振り返った。
「よし、行けるぞ!」
 サフィの声でメープルが二人の方に向き直ると、何度目かの体当たりで木の板が裂けていた。無言でセインとサフィは頷きあって数歩下がる。ぴったりの呼吸で二人は突進し、渾身の体当たりを木の扉にかます。その一撃で扉は破られた。
 一人ずつ扉を抜ける。その先は三叉路だ。どう進むべきかはメープルが覚えている。左からも出口に行けるが少しだけ遠回りだ。なので右に行こうとするが、一行の足は進まなかった。
 右側からひたひたと足音が響く。その足音はこちら側に向かってくる。すぐに足音の主が姿を見せた。ダークスライムのプラムとフランだ。
「やーっと追いついた。みんな足が早いんだから」
「逃さないようにしたトラップも結構な数を抜けたわね。いや、すごいわあなた達」
 感心したように言う二人だが、追いついたとなったら状況的にはダークスライムたちが有利だ。声には余裕が伺える。くっ、とセインとサフィは歯噛みする。
 一方、メープルの顔からは表情が抜け落ちていた。普段明るく振る舞う彼女ゆえ、それが逆に不気味だ。
「ねえ、お姉ちゃんは? アンバーはどうしたの?」
 メープルの言葉の通り、現れたのはプラムとフランだけである。アンバーの姿はなかった。そしてアンバーが追いついてくる様子もない。メープルの問いにプラムとフランは笑うだけで何も答えなかった。
 重苦しい空気がセインたち一行にかかる。それでも、悲しんでいる暇などない。闘うべきか、逃げるべきか、セインはすぐに判断して指示を出そうとした。
「……ぃ」
 その時、うつむいたメープルがぶつぶつと小さくつぶやいた。
「ん? 何か言ったかしら?」
「……ない」
「ごめん、聞こえないんだけど」
「メープル、どうした?」
 つぶやくメープルにプラムが聞き返し、さらに恐る恐るセインが声をかけた。
 次の瞬間、メープルが涙に濡れた顔を上げた。その目は怒りに燃えている。
「絶対許さない!」
 突き出した杖から無詠唱で炎の帯が放たれる。慌ててプラムとフランは跳んで避ける。
「許さない! 許さないぃい!」
 炎の玉を乱射するメープル。あたふたと二人のダークスライムは躱そうとする。
「お、おい落ち着けメープル!」
「黙ってて!」
 魔法を使い続けると消耗する。諌めようとしたサフィをメープルは叫んで遮った。
「くっ……」
 プラムが一瞬で天井に跳び、上から襲撃を試みる。ダークスライムの目標は一番はセインである。何もメープルの相手をする必要はないのだが、メープルがそうさせない。
「二度も同じ手を食うかぁああ!」
 天井に跳んだのをメープルは見逃していなかった。そのプラムに向かって氷結魔法が放たれる。驚いたプラムの飛距離は伸びず、セインより少し手前に墜落した。だがそれはセインとサフィの二人とメープルの間に割り込んだ形となった。つまり、メープルはプラムとフランに挟み撃ちにされる形となっていた。
「……行って!」
 メープルが叫ぶ。そこでセインとサフィは気づいた。普段は明るく愛嬌
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