アンバーとメープルはイルトスト王国のそれなりに名の知れた魔術師の家に双子として生を受けた。両親ともに優秀な魔法使いゆえ、アンバーもメープルもさぞ強力な魔法使いになるだろうと期待されていた。
確かに数刻遅れて生まれたメープルは優秀な魔法使いに育った。しかしアンバーは……勉学こそできたが、魔術に関してはあまり優秀とは言えなかった。両親にも失望され、周囲からも陰口を叩かれた。
数少ない味方が幼馴染で勇者候補であったセインだった。双子の妹のメープルも味方ではいてくれていたのだが、優秀なメープルはアンバーにとって眩しすぎて接しづらかったのだ。
両親に邪険に扱われ、家の使用人に嘲笑われ、級友にいじめられ、辛くなって我慢できなくなったとき、アンバーはいつも自分の屋敷の裏手にある林に逃げていた。それに付き添ってくれたのがセインだった。
「なんでわたしだけこんな目に遭わないといけないのでしょうか?」
セインは何も言わずにただ黙って聞いてくれた。
「私だってメープルと同じように魔法を使いたいです……」
「そうか」
「でも、いくら練習したってダメ……ダメなんです! もう、どうしたらいいのか分からないです!」
普段の落ち着いた調子を保てない悲痛なアンバーの悲鳴。
「そうだね……」
「もう嫌です! なんでわたしばっかり辛い思いをしなくちゃいけないのですか!?」
そう叫んでわんわん泣くアンバーをセインは抱き寄せて頭を撫でた。そして落ち着いたあたりでメープルが迎えに来る。この流れがお約束だった。
最終的にアンバーは家を飛び出して聖職者にでもなろうかと考えて主神教団の教会を訪ねた。そこでアンバーは魔術には適正はないが、それを補って余るように神聖なる魔法に関しては優れていることが分かった。
世を捨てるというなげやりな気持ちではなく、神聖魔法を物にして人の役に立つ……その気持ちでアンバーは改めて主神教団の門を叩いたのであった。すぐに彼女は頭角を現し、首席で学校を卒業できた。その彼女を自分のことのように喜んでくれたのが、双子の妹のメープルと、やはりセインであった。
その頃にはセインも勇者候補から勇者へと認められつつあり、魔王討伐の旅に準備しようとしているところであった。
「よかったら、アンバーにも一緒に来てほしいんだけど……ちゃんと守るからさ」
優秀な妹のメープルも眩しかったが、手を差し伸べるセインも眩しかった。その眩しさはとても心地よく、迷わずアンバーはその手を握ったのであった……
「ふふっ、本当は私から声をかけたかったのに、先を越されてしまいましたね……」
「あーらら、みんなお姉さんを置いて逃げちゃったよ? 良かったの?」
セインやメープル、サフィが逃げて後にはアンバーと、彼女を挟み撃ちにして包む二人のダークスライムが残った。
「貴女達こそいいのですか? 女の私には用はないでしょう。離してください」
意地悪そうに言うプラムにアンバーは冷たく言う。彼女の中では勝算があった。魔物娘は番となる男を求めて襲いかかってくる存在。女であれば興味はないはず。だからこそサフィもメープルも、そして自分も男のセインをかばうようにして前に出て戦い、そして今回、レスクチェンジでセインと入れ替わりでわざと捕まった。すぐにダークスライムたちは自分を捨て置き、セインを追跡するだろうとアンバーは踏んでいた。
しかし、二人のダークスライムは顔を見合わせてクスクスと笑い出した。獲物を逃して狼狽する様子は見受けられない。
「っ、何がおかしいのですか?」
強気に訊ねるアンバー。しかし、目の前で慌てることなく笑っているダークスライムの不気味さに声が震えていた。
「確かに、一番欲しいのはあのお兄さんなんだけどね〜」
「女に用がないというのは間違いね」
「神官のお姉さん、魔物娘の勉強はちょっとしたみたいだけどぉ……」
「私達ダークスライムのことは勉強不足だったみたいね?」
「……どういうことですか」
努めて冷静に訊ねるアンバーだが、冷や汗が止まらない。自分たちはなにか盛大な勘違いをしていたのではないだろうか。
そんなアンバーにダークスライムたちは答えを明かす。
「私達ダークスライムはね、人間の女性を襲ってダークスライムに変える能力があるんだよ
#9825;」
「たっぷりと気持ちよくして、心も身体もとろとろにして、本当にとろとろになってダークスライムに……
#9825;」
心臓を冷たい手で鷲掴みにされたような気分だった。自分が襲われるばかりか、変えられる? 人間をやめて、このみだらな魔物娘に……!?
逃したセインたちに助けを求めるべく声をあげようとしたアンバーであったが、それより先にプラムがその空いた口に自らの触手をねじ込んだ。甘い、ぶどうのような味が口いっぱいに広
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