「この奥に誠実の宝玉があるんだね?」
とある洞窟の入り口にて、革鎧に身を包み、マントに身を包んでいる青年が訊ねるようにして言う。青年と言っても、少年からようやく上がりたてと言った年頃だ。
「ああ、そうらしい」
答えたのは隣にいた、スケイルアーマーで身を固めている女性が答えた。青年より背がやや高く、歳も彼よりは上に見え、面影は少し青年に似ている。
「よーし、じゃあちゃちゃっと踏破して宿でゆっくり寝よう!」
「もう、メープルちゃんとしてください」
明るい調子で持っている杖を掲げる三角帽子をかぶりローブに身を包んだ少女と、それを諌める法衣をはおり神官帽をかぶった少女……格好こそ違うが、そして髪色も少し異なっていたが少女の顔は瓜二つであった。青年より年下に見える。
彼らはイルトスト王国から出発した、勇者の一行である。勇者 セイン、女戦士 サフィ、魔女 メープル、女神官 アンバー……そろそろ冒険に慣れ始めたころだ。この四人は今、誠実の洞窟と呼ばれる洞窟に来ていた。目的は、とある賢者に依頼された、洞窟の奥に安置されていると言われている宝玉"誠実の宝玉"。
洞窟の探索は拍子抜けるくらいに障壁がなかった。時々、子供騙しなトラップがあったが、メープルが気づいて処理をした。1時間も歩いたらあっという間に最深部に到達した。
「これが"誠実の宝玉"かな?」
最深部の部屋に安置されていたのは、大きな紫水晶であった。
「きれいですね」
「これを持って帰ったら賢者が次の道を示してくれるんだな?」
紫水晶の宝玉の輝きにアンバーもサフィもここが敵地であることを忘れて見惚れる。だが……
「どうかな……」
水晶を前にして明るい調子だった一行の中で唯一難しい顔をしていたのはメープルであった。
「この水晶、そんな大層な名前がつけられるほど魔力を感じないんだけど……」
「それもそーだよね!」
メープルの言葉を肯定する声が背後からした。だがその声はセインでもサフィでもアンバーでもなかった。
一行が驚いて振り向くと、洞窟の天井からべチャリと何かが堕ちてきた。安置されていた紫水晶よりもさらに濃く深い色の粘体だ。その形は女の人を模している。にへらと笑っている顔は幼い印象を受けるが、女性と判断した材料である胸はとても立派だ。その胸元には子どもが落書きしたかのような顔の球体が埋まっている。ダークスライムだ!
「だってそれ、偽物だもん」
「本物は盗られたら大変だから、2ヶ月前に引越ししておいたわ」
さらにもう一体、湧き水のように地面から現れた。胸の大きさは先の個体にまさるともおとらないが、背丈は高く、喋り方からも大人な雰囲気が漂っている。
プラムとフランと名乗った二体のダークスライムはじわじわと、セインたち一行ににじり寄る。そのダークスライムからセインを守るように、サフィとメープルとアンバーが彼を囲った。
「お、おい……僕が前衛なんだから僕が前に出ないと」
「黙って、お兄ちゃん。こいつら、お兄ちゃんが狙いだよ」
押し殺した声でメープルが言う。実の兄妹ではないが、セインがいくつか年上ということもあって彼女は彼を「お兄ちゃん」と呼び、よく甘える。しかし今はその甘えもなくかなり緊迫した声だ。
「魔物娘は……その……エッチすぎて、男の人を襲います……」
その内容に羞恥を覚えりんごのように真っ赤になりながら、メープルが解説する。
彼女の解説の通りだ。魔王が代替わりしてサキュバス系の魔物が魔族を束ねる王となったとき、魔物たちは変わった。人を殺し喰らう魔物から、人を愛し性的な意味で喰らう魔物娘に。
魔物娘は番となる男を求めて襲いかかってくる。だから……
「私達が戦ったほうが良い。セインは支援を頼む……!」
ジャベリンを構えながらサフィは揺るぎない声で言う。女であれば興味がないであろうから、セインが助かる可能性が上がる。だから、サフィはもちろん、本来であれば後ろに周り支援をするメープルやアンバーが前に出て盾になる作戦であった。
「いや、それはダメだろ!? 僕は勇者だし……みんなを守らないと……!」
「だーいじょうぶだいじょうぶ。いつもお兄ちゃんはメープルたちを守ってくれてるんだから、今回はドーンと後ろで構えてなさい!」
セインの反論にメープルはちょっと振り向いてニヤリと不敵に笑ってみせる。あとサフィも、と彼女は普段から自分を前衛として守ってくれる女戦士の存在も付け加えた。
会話をしている間にもダークスライムたちはにじりよってきていた。さらにいい手を考えている猶予もないし、三人のセインを守ろうとする覚悟は本物だ。セインも覚悟を決めた。
「えーい♪」
ダークスライムのプラムが粘体の触手を伸ばしてくる。サフィが槍で薙ぎ、その触手を打ち払った。
「うわ、あぶなっ!?
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