うひゃらひゃほーい!

 魔物が魔物娘の姿に変わり、冒険者という職業は危険性がグーンと減った。少なくとも「魔物に殺される」「魔物に食われる」の二つの死因がなくなったことは非常に大きい。即死級の罠さえなんとかすれば、冒険で命を落とすことは少なくなった。
 よって、冒険という仕事は旧世代と比べて大きく変わった。もちろん、昔からある遺跡の調査などは今も行われている。だが、魔物娘や男たちが、相手を求めて冒険をする、あるいは遺跡などの謎解きを楽しむと言った要素が加わった。もちろん、一攫千金を夢見る人間の冒険者も少なくはないのだが。
 今日も今日とて、とある小さな遺跡に三人組の冒険者が入り込んでいた。人間の男二人組と、魔物化したエルフだ。うち、軽装な革鎧で身を固め、腰に短剣を佩いている男とエルフは手を組んで歩いている。恋人同士なのだ。一方、傷だらけの金属鎧で身を固めている男は油断なく、腰の大剣に手をかけて周囲を見渡している。どこから襲撃者が現れても、罠があっても対処できるように。だが、襲撃者はいないし、罠はすべて革鎧の男やエルフが先に見つけてしまう。男は密偵(スカウト)、エルフはその寿命ゆえ知識も豊富で場数も踏んでいる。前衛としてひたすら剣を奮っている彼とは、専門分野が違うというものだ。それがより、彼を焦らせる。
「おいおいウォーレン、そう気張るなよ。帰るまでが冒険なんだぜ。そんなんだと帰る途中でバテるぞ?」
「……分かってるよチャンク」
 軽い調子で言う革鎧の男に、ウォーレンと呼ばれた金属鎧の男は、鎧と同様に重たい口調で応えた。事情を知るエルフ、ライマは軽く眉を寄せた。
 恋人、チャンクの言うことは最もだ。だいたい、ウォーレンは帰って金属鎧を脱ぐと疲労困憊でベッドに突っ伏してすぐ寝てしまう。金銭はともかく、肉体的にも精神的にも余裕のない生活だ。だが、彼をここまで駆り立てるものがあった。
 ウォーレンの故郷は宗教国家、イルトスト王国の辺鄙な集落にある。人通りも少なく、物も届かない不便な場所だ。そんな集落のとある家で、ウォーレンは四人兄弟の長男として生まれた。生活は苦しかった。集落では当然仕事が少なく、その仕事をするべきであろう父は酒浸りの生活、母は過労でこの世を去った。母を失ってから貧しくなったウォーレンの家はより生活しづらくなり、ウォーレンの直下の弟と妹も夭折した。残るは病弱な末の妹だけ……父が"急死"してから、ウォーレンは病弱な妹のために故郷を飛び出して冒険者になったのであった。
 斧を振るっており力もあったウォーレンは前衛として適していたが、戦いなれているわけではなかった。それゆえに生傷が耐えなかった。金属鎧の下の身体は傷だらけだ。彼が金属鎧を着ているのは、敵の攻撃を避けずに受けることが前提だからである。もっとも、妹の治療費のために金を稼ぎたいと思っていたウォーレンはその金属鎧すら買うのを当初はためらっていたのだが。もはや腐れ縁となったチャンクが強く奨めたために今の中古の鎧を使っている。
 この事情を知っているライマはあまりウォーレンに気を抜くように言えなかった。今も彼の心の中には故郷の妹の存在があり、早く金を稼いで帰らねば、という焦りがある。
 ウォーレンの焦りをよそに遺跡探索は順調に進む。トラップを越え、謎を解き、一行は遺跡の最深部に到達する。そこではなんとかウォーレンも活躍することができた。四方八方から転がってくる樽を破壊して一定時間耐えきり、自分の身を守る物であった。
 遺跡の試練をすべて乗り越え、その褒美とも言うべき宝物庫の前に一行はたどり着いた。いくら、前時代と調子が変わったとは言え、仕事は手を抜かない。チャンクが仕掛けがないか慎重に扉を調べる。ライマも魔力がないか、目を閉じて瞑想をする。だが首を振った。
「宝物庫の扉とその周辺の壁は魔力を阻害する物で作られているわ。この先はどうなっているか分からない」
「だけど仕掛けはなさそうだぜ。開けて入ろうか?」
「……そうするしかあるまいよ」
 二人の結果を聞いて、手持ち無沙汰だったウォーレンはぽつりと答えた。
 押し黙りながら、チャンクは宝物庫の扉を開く。途端に一行の視界に飛び込んで来たのは……さんさんと輝く金貨の山や、無造作に転がっている宝玉、豪勢な装飾……まさに宝の山だ!
「おお、コイツはすごいな」
「これで故郷のクララも……!」
 男どもは目を輝かせるが、ライマは眉を寄せている。何か違和感がある。何か良くない予感が……
 その何かの答えを出す前に、駆け出した者がいた。金貨の山を目にして、欲のあまり矢も盾も止まらない。もともと貧しい家の出で、病気の妹のためとは言え金銭欲が強い者……ウォーレンが金属鎧を着ているとは思えないくらいの身軽さで山へ突進する。
「うひゃらひゃほーい!!」
「……! 待ってウ
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33