心悪しき者、魔のランプを手にし……

「くくく……ふははは! ついに手に入れたぞ!」
 一匹狼の盗賊男、カリムは洞窟の奥で抑えきれぬ笑いを放っていた。彼の視線の先には黄金色の物が台座にある。人によってはそれを薬缶だの急須だの言うかも知れない。だがこれはランプ、灯りの道具である。砂漠の国ではよくあるデザインだ。
 鎮座ましましているランプはそれは芸術的な作りがされていた。繊細な唐草模様がランプの表面に主張しすぎない程度に施されている。その唐草模様の先端には大粒の血のような色をしたルビーがあしらわれていた。黄金色のランプは悠久の時を経てもくすむことなく、鈍い光を放っており……そして不思議なことにほこりをかぶっていなかった。
 そう、このランプはただの灯りのランプではない。魔法のランプである。このランプを使うと中からランプの精が現れ、願い事を叶えてくれるという伝説が言い伝えられている。そのランプを、カリムは見つけたのだ。
 正しき心を持つ者が手にすればそれは正しく使われるかもしれない。しかし悪しき心が持つ者が手にするとどうなるか……その時は世界が終わるかもしれない。カリムは、後者であった。
「はじめに不老不死を願う。次に俺は一国の王になるのだ。もし願い事が三つまでであればそのときはランプの精に自害を命じるのだ。ふはははは!」
 その欲望にまみれた皮算用な願いを口にしながら、カリムは手をワキワキと蠢かせ、ランプに覆いかぶさる。そしてついに、ランプを手にとった。それまでも何度も高笑いをしていたカリムは、その日一番の高笑いを上げたのであった。
 さて、お楽しみはこれからだ。ランプの精を呼び出さねばならない。魔神などを召喚するとなったら生贄を要するのが常であるが、このランプの精の召喚の方法は極めて簡単だ。ランプを手で擦ればいいだけだ。ふふふ、とほくそ笑みながらカリムはランプに手をかけた。
「いでよ〜、いでよ〜、ランプの精よ〜」
 ランプの魔神を呼び出す言葉をかけながら、カリムはランプにかけている手を前後にすばやく動かす。
 効果はたちまちのうちに現れた。ランプが摩擦熱以外の温かみを一人でに持ち、その熱を逃すかのように、火を灯す口から煙が、それも桃色の煙が沸き起こった。煙はもくもくと尋常ではない量が出て絨毯のように広がり、溜まる水のように厚みをもった。まるで雲だ。
 そしてその煙の雲からぬっと人影が現れた。まだ人影は煙に包まれており、よく見えないが割と小柄だ。その人影を包んでいる煙だけがふっと風に吹かれて消えた。
「呼ばれて飛び出てこんにちは〜! ランプの精のジーニーのジーンちゃんですよ〜!」
「……え?」
 現れた魔神を見てカリムはあっけに取られた。魔神であるならば魔神らしくおどろおどろしい者か、あるいは大柄な男が現れる者だと思ったのだ。だが現れたのは煙に包まれていた姿そのままに小柄であった。それだけではない。
 現れたのは少女だったのだ。
 白に近い桃色の長い髪を後頭部の高い位置で束ねている。顔立ちはあどげなさと妖艶さ、両方を兼ね備えておりなんとも不思議で美しい。その顔にある目は好奇心旺盛そうに光っているが、まるでルビーのように赤い。
 胸は決して大きくはないが、それでも大ぶりなレモンくらいはあり控えめながらもしっかりと存在を主張している。胸周りを包んでいるのは布一枚なのでその形の良さがよく分かる。
 お腹は健康的に平らでくびれている。褐色の肌が眩しい。
 腰から下はよく透けている赤紫の布で包まれている。透けているためつるりとした脚が見えるが、はっきりとは見えない。さらに腰回りはもっとぼやけて見える。はっきりと見えないが故に見てしまう。
 そのような扇情的な格好をしている少女のような姿をしているのが、ランプの精、ジーニーのジーンであった。
 現れた彼女の姿を見てあっけに取られているカリム。そのカリムをジーンは覗き込む。 
「ん〜? これじゃ通じないかな? それじゃあ……問おう! 貴方が私のマスターか!?」
「あ、ああ……確かにお前を呼び出したのは俺だが……」
 少女の姿に毒気を抜かれた男は先程の高笑いはどこへやら、湿気た声でジーンの言葉に答える。対してジーンは破顔一笑だ。
「ああよかった! 長い間寝ていたからもう言葉が通じなくなっちゃったと思ったよ。もう何年寝ていたのかな? 十年? 百年? 千年? 一万年と二千年?」
「魔の者は見かけの年齢を信じちゃいけないと言うがそれはさすがにないだろ!」
 腕を組み首をかしげる少女に思わずカリムは突っ込む。そうしてから咳払いをして本題に映る。
「それはともかくランプの精のジーンとやら。ランプの精ということは願いを叶える力があるんだな?」
「むぅ……せっかく出会ってはじめましてってところなのにいきなりその話〜? ワイルドなワルの男の人も嫌い
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