「あー! マスターお行儀悪いです!」
ぷんぷんと私は怒ってみせます。身体が万年筆ほどの大きさしかないから迫力はないでしょうけど。そして実際その通りなのでしょう。彼は全く気にしていない様子でます。
彼の前には皿があり、その上にクッキーが乗っています。しかしそのクッキーは本来の姿を呈しておりません。中央にくぼみがあるクッキーですが、本来ならここにはチョコレートが入っているはずなのです。ですがそのチョコレートは忽然と消えています。一体どこへ!? 犯人は誰ですか!?
……もちろん、私の目の前でニコニコしている彼の仕業です。悪びれる様子のない彼に私は嘆息します。
人には苦手な物と好きな物があります。人じゃない魔物娘の私にもあります。あんまり、辛い物は得意ではありません。一方で甘い物は大好きです♪ 彼が出してくれるモノの次の次くらいに大好きです
#9829; ちなみに二番めの好物は彼が作ってくれる創作料理です
#9829; 甘い物は特に私はチョコレートとか好きですね。チョコレート単品も好きですけど、ビスケットやクッキーと一緒になっているお菓子が好きです。ビスケットやクッキーは柔らかかったりぱきっと固かったりするチョコレートとはまた違うサクサクとした食感と塩っけで愉しませてくれます。このビスケットのチョコレートがけ、あるいはクッキーのチョコレートかけ。このお菓子は一つの完成されたお菓子なのです! 私も時々自分で作ります。
一方で目の前にいる彼もチョコレートは好きなのですが、苦手な物がいくつかあります。それがクッキーなのです。
あのクリームが挟まったココアクッキーのお菓子のクリームだけをなめとって他を捨てたり私に押し付けたりするのは日常茶飯事。みんながよく"戦争"と言ってどっちが好物か別れるあのお菓子も、そんな争いは知ったことではないとチョコレートの部分だけなめとってしまいます。あのチョコレートがかかった棒状のお菓子もチョコだけ舐め取ります。対して、チョコが最後までたっぷりと詰まっているあのお菓子はどうあがいてもチョコレートだけを食べることができないので、これがおやつに出てきたときはしょげてしまいます。一番酷いと思ったのはチョコチップクッキーのチョコだけをほじくり出して食べちゃうことです!
もーう、どれだけチョコレートが好きでクッキーが苦手なんですか! 彼はもそもそするからイヤだと言います。
人の好みや苦手な物を押し付けるのは創作の妖精としてやってはいけないことだと思うので私も今まで黙っていたのですが……さすがに許しません! お仕置きです! あとで彼と一緒に楽しもうとしていた完成された作品のお菓子をこんな無残なことにされてプンプンです。お詫びにと言って違うお菓子を出されてもごまかされません! ……もらいますけど。
こうなったら彼には思い知っていただきましょう。彼から貰ったゴマ入りの棒状ビスケットをむしゃむしゃ食べながら私は策略を巡らせるのでした。
「お、俺のために作ってくれてるんだ? いやー、ありがとう」
今、私はひらひらと飛びながら湯煎して溶かしたチョコレートをかき混ぜています。お菓子作りも創作の一つです♪ 創作の妖精たる者、いろんな創作の分野に挑戦するのです。
そんな私の隣に彼はやってきて私の様子を見ています。動く様子はありません。狙いは分かっています。つまみ食いです。木から熟して落ちるりんごを待つかの如く彼は私が作るチョコレートを待っているのです。私の分は残してくれますよね……?
それはともかく私は魔法を使ってヒョイとチョコレートをすくい上げて一口サイズに空中でこねます。中にはナッツを練り込みます。形が整ったらクッキングペーパーの上に移して冷えるのを待ちながら次のチョコレートをすくい上げてこねます。中にはまたナッツ……いえ、さっきはナッツはナッツでもピーナッツを入れましたが、今度はクルミを入れましょう。次はクラッシュアーモンドにしましょうか。そして次は……
「うん、美味い美味い♪」
そんなふうに私が作っている横で、程よく冷えた、それでもまだやわらかいチョコレートを彼はヒョイと摘んで食べてしまいます。その次のチョコレートも、その次も……
「いやー、君が作ってくれるお菓子、本当に美味しいよ」
褒めてくれて照れちゃいます。思わず顔がニヤけちゃいます。いえ、むしろ今はニヤけていた方がいいです。ピーナッツのもクルミのもアーモンドのも食べた彼は、その次に私が作ったチョコレートを摘んで口の中に放り込みました。
「お、またピーナッツか♪」
ぽりぽりっと彼の口の中でナッツが噛み砕かれる音が聞こえます。……ふふ、本当に食べてしまったのですね? その次のクルミのも、また作ったアーモンドのも……
最初に作った3つは普通のナ
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