「む……」
浜辺を歩いていた浪人、黒岩政寅は前方に見えたものに軽く唸り、まゆを寄せた。大人が四人いる。その近くにこの辺りの村の子であろう小さな影がいた。そしてその背後には……大きな塊のような物が転がっている。一見、岩や魚の山にも見えるが……目を凝らすとひっくり返った亀の甲羅のような物と分かる。
「さては魔の者か……」
歩みを止めず、その集まりに近づきながら、政寅は一人つぶやいた。独り言は一人であり続けたゆえについてしまった癖だ。近づくにつれ、影ははっきりとしてきて姿もわかってきた。四人の大人は見慣れない格好であった。少なくともジパングや霧の国では見られない。ゆったりとした服を着て杖を持っている女、胸元に何か大きな飾りを下げて杖を持っている男、屈強そうで斧を持っている男、そして青い外套を纏い美しい装飾が施された剣を持つ一番手慣れていそうな青年……武装していることに政寅の緊張は高まっていく。子どもは少年であった。格好は粗末なジパングの衣装。やはり近くに村があり、そこの者だろう。近くに転がっているのはやはり亀の甲羅であった。
「そこを退け、子ども……そうすれば命だけは助ける」
腰の剣に手をかけながら青年は少年に詰め寄る。少年は一歩後ろに下がるが、甲羅をかばうようにしてどかない。
「ダメだ……海のミコさまに手を上げるとバチが当たるだ」
「くだらない……主神の加護がそのようなバチとやらを受け付けないでしょう」
少年の言葉を鼻で笑ったのは胸に飾りを下げた男だ。おそらく向こうの国の僧侶なのだろう。
「どかねぇのなら、お前ごとぶった切ってやっていいんだぜ?」
嗜虐的に、斧を持った男が笑った。女は杖を構える。何も言っていないが、仲間を止める様子はなくむしろ自分もその行動をする……その意思を無言で表していた。
無視しても良かった。とは言うものの、引き返して迂回するのも面倒だ。そしてそのまま横を通り過ぎるのも不自然だ。正面切って政寅は声をかけることにした。
「どうも、お四方……子ども相手に何やら物騒だな?」
突然の乱入者に四人は素早く武器を構えて向き直った。その顔が引きつる。
これだ……と政寅は腹の中で呻く。自分の顔を見た者は皆、このような反応をする。無理もないと政寅は自嘲し、唇を歪めた。幼き頃の病の影響で、政寅の顔の左半分はやけどでもしたかのように爛れている。今は編笠で隠されているが、側頭部も同じように灼けており、頭髪がない。この顔を恐れる物は多かった。実の母親ですら。ゆえに政寅は誰ともめおとになれなかった。仕官をしようとすれば煙たがれる。他にすることがないゆえ、剣を持って諸国を旅していた。
乱入者の風貌にあっけに取られていた一行であったが、すぐに気を取り直したようだ。
「なんだてめえ、何しに来た!? 邪魔するつもりかオラァ!?」
「我らはイルトスト王国の者……魔物を根絶やしにするべく、この国に来た」
斧を持った男がすごみ、胸に飾りを下げた男が静かに、だが不穏な調子で名乗る。
「邪魔はしないで欲しいのよね。でなければ……」
「貴様を魔物に誑かされている、同等の者として処刑する!」
「はぁ……」
杖を持つ女と、筆頭格の男の言葉に政寅はため息をついた。噂には聞いたことがあったが、この者らが「勇者」とその仲間と言うことであろう。どのような存在かは四人の言葉が雄弁に物語っている。
そして……話は通じない。このようにお高く止まった者は自分が絶対優位だと思って疑っていない。このまま引き下がってやっても良かった。政寅は旅の者……子どもや魔の者がどうなろうと、関係ない。だが、四人の態度には腹に据えかねる者があった。
「やってみろ!」
言葉とともに政寅は砂浜を蹴り上げた。砂塵が舞い、視界が煙る。突然の政宗の行動に目を守るべく、四人は顔を覆う。だがそれが致命的だ。
「うっ!」
胸に飾りを下げた男がうめき声を上げる。みぞおちに、政寅の刀の柄頭がめり込んでいた。力なく男は崩れ落ち、動かなくなった。
「おのれ卑怯者!」
筆頭格の男……彼が勇者だろう、それが斬りかかってくる。政寅はその刃を躱した。だが打ち合わない。彼と、斧を持った男とはまともにやりあわない方がいい。それなりに修羅場をくぐり抜けた政寅は武器の構えだけでその力量を見抜いていた。目指すは女。
「ひっ……!」
政寅の奇襲に女は固まってしまう。身を守ることも忘れてしまったようだ。彼女の腹を政宗は刀の背で薙ぐ。女は悶絶して砂浜に倒れ伏した。
「さて、このくらいにしようか。お主らの行動は頭に来たが、別に命を奪おうとは思わぬ。だが、もしまだかかってくるようであれば……」
政寅は刃の切っ先を女の鼻先に向ける。女が息を飲んだ。
「おっと、飛び道具もあるゆえ、下手な真似をするのも薦めぬぞ」
懐
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