「社長、少しお話いいですか?」
私の秘書、ピクシーのステラが私に声をかけてきた。今、妖精サイズになっている彼女はひらひらと空中に浮かんだまま、腕組みをして私を見ている。その腕の上にはブラウスに包まれたピクシーらしからぬ豊満な胸が……おっとと、それに見とれている場合ではない。この様子はかなり怒っている。赤フレームの伊達メガネの奥にある目が鋭い。
私は椅子をステラの方に向けた。もしかしたら顔は少し引きつっているかもしれない。その私の鼻先にステラはなにかの書類を取り出して突きつけてきた。
「これを見てください」
受け取り、見てみる。ははぁ、これは……
「福来ホールディングス本社の休暇取得率です。課長職以下は平均でまとめて割愛させていただききましたが、部長職以上は全員記録し記載しました」
ふむふむ、なるほどなるほど……我が社では有給休暇は30日間とるように指示している。いつ使うかは本人に任せているが、あまりに休暇をとっている様子がなさそうであれば少しチェックを入れ、問題があるようなら指導を行う。福来ホールディングスは旅行会社やレジャーランドなどの娯楽関係の子会社を多く抱えている。そんな会社が自分の社員を楽しませずにどうするのだ! と私は思っている。またそう言うルールを作らないと抜け駆けして仕事をする奴が出て、そしてそれに悪い意味で触発されて同じように仕事をする奴が出てしまう。それ故の会社のルールだ。
それはともかく……私は資料に目を通す。どこも問題はなさそうだ。強いて言うなら、部長職以上は全員載せているとステラは言ったのに、私の名前がない。どういうことだ? ……いや、あった。最後のページの一番下にあった。まったく、普通は社長を一番上に持ってくるべきではないだろうか?
だが、そうは言うもののステラがなぜ一番最後に私の名前と記録を持ってきたか、私には分かっていた。ああ、彼女が怒っている理由も、自分の行動が原因だしな……分かるよ。
「社長! 社長のこれまでの有給取得がたったの2日! しかも休日出勤も上限に近い月が4月から3ヶ月間連続で続いています! これは社長のルールに反します!」
「いや、反してはいないだろう……年度末や後半は休むさ」
「いいえ、信用できません!」
今度は手を腰に当ててステラは私を睨む。そんなに私は信用ないのだろうか……
「それに、社長が出る必要性がない他社とのカンファレンスも、社長はほぼ主席しています!」
……まあそうだな。副社長や専務などに行かせてもいい会議も、私が出ていた。ほぼ惰性で出ていたのもあるけど……
「でも他になんかやることないんだもん……」
「だから! 社長が後半は休むと言っても信用できないんです!」
空中で地団駄を踏んでステラは怒ってみせる。秘書が社長にやる行動ではないのだが……まあ、私としてはこれくらいフランクに接される方が嬉しかったりもする。
「と言うことで!」
それ以上私が言い訳をしないよう、話を強引に切り上げる口調でステラは叫んだ。そしてまた書類を取り出して私に押し付けてきた。何々……
「3日後のソルナ・コスタでのカンファレンスの後は7日間、休暇を取っていただきます!」
「ま、待ってくれステラ! それは強制かい!?」
「もちろんです!」
伊達メガネのテンプルをくいっと持ち上げながらステラはきっぱりと言う。
「い、いやいやいやいや。ソルナ・コスタでの会議の後は霧の大陸の福来ホテル青都社での打ち合わせがあるし……」
「それは社長が行かなくても良いでしょう。副社長の月岡さんに行ってもらいます。すでに話はしており、月岡さんも快諾してくださいました。月岡さんも霧の大陸の出張およびそこでのグルメ観光を楽しみにしていると言っておりました」
くっ……根回ししていたか。着実に逃げ道を塞ぎにかかっている、このイタズラピクシー秘書は。彼女が有能なのは自慢だが、その能力をいざ敵に回すと厄介この上ない。社長権限なんて暴挙にでなければ敗色は濃厚だ。するつもりはないけど。
別に休みを取ること自体は構わない。そして社長である私が休まないと言うことは、社の雰囲気を休みにくい物にすることも分かっている。
しかし休むとどうも退屈だ。趣味に時間を費やすのだって、土日のどちらか一日でいい。そうでないとどうもだらけきって落ち着かないのだ。そんな中、ステラに強要されている7日間連続の休暇取得……どうしたものか……
ここでステラが不意に怒った顔は消し去った。代わりに甘くさわやかな笑顔を浮かべている。
「ねえ社長……」
媚びた声で言いながらステラはひらひらと私の顔の近くまで飛んできて、さらに耳元に回り込んだ。そして私の耳にこしょこしょと何事かを囁く。
「……、それに……しい……」
「……!」
私の目が驚きに見開か
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