佐志原勇姫

 今日は彼氏の裕とデートだ♪ ……っと言ってもお家デートだけど。近いうちに海に行くことになっているけど、その交通費とかが結構馬鹿にならない。なのでその前後は節約のためにもお家デートをすると言うことになったのだ。
 そんな訳で今日は裕の家に遊びに来ている。今日は家族の人は誰もいないらしい。すでに親御さんには挨拶などしたから別にいられて困ることはないんだけど……まあ、やっぱりヤッている時の声を聞かれるのは恥ずかしい。
 部屋に入ってみると、やっぱりアタシが遊びに来ることを意識しているからか、部屋は片付けられていた。机の上には何も置かれておらず、本棚は整理されている。いかがわしい本は置かれていない。ベッドもホテルのスタッフがしたかのようにメイキングされていた。その下を覗いてみたけどその手の本はない。うーん、残念。 
「ゆ、勇姫先輩……か、勝手に本棚とか物色しないでくださいよ」
 裕がアタシを咎める。顔は緊張と羞恥心で赤くなっていた。そして言葉もつっかえつっかえになっている。緊張すると彼はよく口ごもる。特にアタシの前では。好きな人の前だと緊張してしまうらしい。
 彼はCDをプレイヤーにセットする。明るすぎずシックすぎない、インストゥルメンタルのポップチューンが小さな音量でかかり始めた。彼なりに雰囲気を作ろうとしているのだ。
「分かった分かった。アタシが悪かった。で、エロ本はどこにあるの?」
「も、持ってないですよぅ」
「何を言ってんだ、アタシと始めて会った時はバッチリエロ本持っていたくせに」
 彼と付き合う前……廊下を走っていたアタシと彼が衝突したのがアタシたちが出会ったきっかけだった。その時、彼はトートバックにエロ本を入れていたのだ。もっとも、それは彼の恋愛相談に乗っていた先輩のサキュバスの入れ知恵だったんだけど……
 アタシがあの時の事を言うと彼は顔をリンゴのように真っ赤にしながら、あの本はその先輩、村野美穂に返したのだと言う。ふーん……
 無言でアタシは彼がセットしたベッドの枕を横に投げた。裕が顔色を変えてアタシを制止しようとしたが遅い。シーツをひっぺがし、さらにマットレスをずらす。ビンゴ。ベッドフレームとマットレスの間にブツはあった。あの時裕が持っていたエロ本が一冊、さらにアタシが知らないエロ本が二冊……
「おーおー、健康的で何より」
「ちょ、先輩やめてください!」
 アタシの手からエロ本を取り返そうと裕はアタシに挑みかかったが、極普通の男の子がマンティコアに勝てるはずがない。あっさりとしっぽ一本で彼はアタシにねじ伏せられてしまった。その間、アタシは悠々とエロ本を読む。
 内容はオーソドックスと言おうかなんと言おうか、あられもない女のコや魔物娘の姿の写真が載っている雑誌。ちょいちょい、漫画や官能小説もある。ふむふむ……魔物娘のアタシが読んでもなかなか面白い……
 アタシがエロ本に夢中になっていると、アタシのしっぽで抑えこまれている裕がジタバタと暴れだした。
「うう、先輩ヒドイですよ……」
「なぁに、いつもどおりのことじゃん!」
 そう笑ってみせるアタシを裕は恨めしそうな目で見つめてきた。少し涙目なのがまたそそる……いや、これはガチで不満に思っているみたいだ。これ以上からかうのはやめておこう……しっぽをゆるめて彼を解放してやる。
 でもエロ本を読むのはやめられない。 ……まったく、アタシと言う存在がいながらこいつはオナニーをやっているのだろうか?
「どうなのよ?」
 じろりと横目でアタシは裕に訊ねる。
「え、いやその……し、してないです……いや、ちょっとだけなら……」
 裕の返事は曖昧であった。まあ、そうだろうな。多分、全くのノーってことは無いのだろう。でもやるのは本当に稀……それは彼の精液をいつも味わっているアタシだから分かる。雑誌もそんなに使い込まれた様子はなかったし。
「ゆ、勇姫先輩は?」
「なっ!?」
 アタシは油断していたのかもしれない。ここでまさかの裕の反撃があった。驚き、慌てふためいたアタシはエロ本を取り落としてしまう。その狼狽ぶりは彼の言ったことが図星だと言っているような物だった。
 じっと裕はアタシを見つめてくる。その目は期待と好奇心と、そしてちょっとだけ反抗心のような物も混じっていた。この弱気な性格の通り、いつも彼はアタシにやり込められることが多い。セックスだってアタシがリードすることがほとんどだ。ってか、むしろ逆レイプのノリに近い。そんな彼が見せてきた強気な姿勢……やっぱり裕も男なんだなと思い、ドキドキする……
 いや、ドキドキするのは羞恥心が強い。こら、アタシのオナニーのことでそんなに子犬のように目をキラキラさせてアタシを見るんじゃない! 顔に熱が上るのを感じる。
「で、その、先輩はどうなんですか?」

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