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「退屈じゃのう」
ここは親魔物派であるペー王国……そこの王、オッペケ十二世はいつもの口癖を玉座でつぶやいていた。齢はすでに五十を行っているがとっても女好き。正妻はバイコーンで、さらに側室が六人もいる。政治は適当にやって、それ以外は嫁とセックスばかりしている、とても良君とは言えない王だ。
こんな男が王なら臣下や民は反乱を起こしそうなのだが、この国は先々代から親魔物派になってより農作物は毎年豊作、お陰で税は安価、気候は気まぐれだが大災害が起きたこともない。せいぜいマジメに働いているのは、反魔物派が攻めてきた時に防衛をする兵士たちくらいだろうか。それ以外は民も臣下もセックス三昧。
ペー国はそんなどうしようもない王国であり、外国からは『酒池肉林の王国』などと呼ばれている。親魔物派の国からは淫らさの賛美として、反魔物派の国からは堕落にたいする侮蔑として。
しかし、変化がないと飽きがきてしまう。暇は無味無臭の劇薬、というようなことを誰かが言った。とある魔物娘は、短小なペニスより単調な攻めの方がはるかにはるかにヒドイと言った。実際、その通りだ。オッペケ十二世は今、退屈という無味無臭の毒薬に蝕まれていた。
ここで、夫の苦しみを和らげるのが妻の役割である。好色な魔物娘はセックスばかりしているのではない。男に気に入られるべく、こういう心配りもできるのだ。
「我が君、こんなこともあろうかと私、準備いたしましたわ」
正妻のバイコーン、ミアルカが申し出た。興味を惹かれたとばかりにオッペケ十二世は身を乗り出す。
「ほほう、ワシを喜ばせると申すか、それは感心感心……じゃが、確かにワシは退屈じゃがそろそろディナーの時間じゃ。そなたが用意したものはその後のお楽しみとしようかの?」
「ふふふ……まあ王様
#9829; ディナーの後のお楽しみと言うことは、何を想像していらっしゃるのですか?」
「むぅ、ディナーの後、ベッドで斬新なセックスをするのではないのか?」
「まあ、我が君もお好きですこと
#9829;」
口元を覆ってミアルカは笑う。淫らなバイコーンでも、王の后だ。その仕草は上品であった。
「お楽しみは今からですわ。期待に胸と股間を膨らませながら、前菜からお召し上がりください」
ミアルカは立ち上がって手を打ち鳴らした。晩餐の時間だ。わらわらとラージマウスやワーラビット、ワーキャットなどが準備を始める。形ばかりの会議用の長卓が吹き飛ばされるように片付けられた。そして晩餐用の円卓が置かれ、テーブルクロスが敷かれ燭台が置かれて火が灯された。王はそのテーブルに就く。就くやいなや一人のラージマウスが彼の膝にナプキンをかけ、さらにいつの間にかやってきたクノイチが弓のような速度と正確さで王の前にフォークとナイフを並べた。
たちまちにうちに晩餐の用意が整う。ミアルカ他三人の妻も円卓に就いた。だが、三人ほど同じテーブルについていない。王が訝しげに眉を寄せた。
「ミアルカよ……アゴーニとフアルとレイテの姿が見えないが……」
「まあ、ご安心あそばせ、我が君。彼女たちもすぐにこのテーブルに参りますわ」
涼しい調子でミアルカはいい、二本指を立てた手を上げてメイドを呼んだ。
晩餐の一品目が運ばれてくる。オードブルの盛り合わせだ。召使いのラージマウスたちが厳選に厳選したチーズ、ハニービーが仕込みに仕込んだはちみつ、ブラントーム領で採れて干された陶酔の果実が盛られている。どれも王族クラスの人間でないと手に入らない一級品だ。今ここにいない三人の妻は食べられているのだろうかと気にかけながらオッペケ十二世はそのオードブルに舌鼓を打つ。
二品目は魔界豚とまといの野菜の外葉のスープだ。中に混ぜられているスパイスが豚独特の臭みを消しているところがポイントだ。スープの表面に脂が浮いているというのにさっぱりとしており、それでいながらその脂の旨味を消すこと無くまろやかに仕立てあげた、王が食べるにふさわしい一品となっている。まといの野菜も外側の葉なら肌が敏感になることもなく、美しさを引き立たせる効果が得られる。
そしていよいよ三品目、魚料理が出てくることになったのだが、ここで動きが出た。ミアルカがメイドに訊ねる。
「さあ、準備はいい?」
「はい、大丈夫です!」
メイドの言葉に満足そうに頷いたミアルカは手を上げた。しかし何も起こらない。
「……ミアルカ、どうしたのだ?」
オッペケ十二世が尋ねるが、ミアルカや他の妻は笑うだけだ。焦れったくなってもう一度尋ねようとした王だったが、口をつぐむ。何かが聞こえる。ガチャガチャと。音は上からする。そちらを見上げたオッペケ十二世の目が見開かれた。
シャンデリアから何者かがゆっくりと糸で降ろされている。降ろされているのは……オ
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