「退屈すぎる。私は出て行く」
「ちょ、フリーダ何を言って……」
同族の仲間の止める声も聞かず、ジャバウォックのフリーダは丘にめり込んだ岩に拳を叩きつけた。岩が崩れ落ち、神秘的な青色の光を放つ洞窟が現れる。満足そうにフリーダの紫色の尾が揺れた。
ジャバウォックは不思議の国固有のドラゴンだ。肉体、知能、魔力、どれをとっても原種にひけをとらず、不思議の国の番人を務めている。だがこのフリーダは今、その任務を放棄して外に飛び出そうとしていた。
今フリーダを止めている同族がいる通り、ジャバウォックは他にもたくさん不思議の国に生息している。故に彼女一人が任務を放棄したところで問題はないのだが、さすがに異世界に飛び出すとなるとさすがに仲間は不安があるようだ。
しかし、フリーダの決意は固そうである。長いオールドローズ色の髪をかきあげ、豊満な胸を揺らして彼女は笑ってみせる。
「ここで待っていたらこの淫らな身体を振るうこともない。ならばこちらから打って出る。それだけだ」
「……まあ、好きにするといいわ」
一度は止めたが、男と交わること以外にあまり興味を持たないのが魔物娘だ。フリーダを引き留めようとしていたジャバウォックは肩を竦めた。
「安心しろ。すぐに私にふさわしい婿を見つけて戻ってきてみせる。それじゃあな」
フリーダはひとつ笑いを浮かべ、そして青色の洞窟に身を踊らせた。もういない彼女にいってらっしゃいと残されたジャバウォックはつぶやく。続けて不安そうに呟いた。
「ところでこのワープルート……女王様が作る正規のルートじゃないとどこに出るかランダムなんだけど、大丈夫かしら? 帰るのは簡単だけど……」
「ぬおっ!?」
素っ頓狂な声をフリーダは上げる。ワープルートを通って放り出された所は空の上。さすがの彼女も驚いた。だが幸い彼女はドラゴン族だ。空中で身体をひねり、その大きな翼を羽ばたかせて飛翔する。
空中でホバリングしながら彼女は下を見下ろした。どうやらここは山岳地帯のようだ。見渡すかぎり山脈が続いている。多くは緑に包まれているが一部は硬そうな岩肌が崖を作ってむきだしになっていた。そして彼女はその山脈の中でもっとも高い山の頂上近くに街があるのを捕らえる。
「こんな山の中の田舎にいい男がいるかどうか怪しいが……行ってみるか」
空中で一度宙返りを打ち、フリーダはその村に降下した。
「親方ー! 空から女の子がー!」
「何をバカなことを言って……おお、本当だな! と言うかアレ、ドラゴンじゃないのか?」
山岳地帯の村、ベルクオロスにて。空を見上げた大工と棟梁の叫ぶ。彼らの声を聞いてあちこちから村人が集まってくる。
その村の開けた場所に、フリーダは着地した。着地したフリーダは村人を挑戦的な目で見渡す。大工農夫肉屋魚屋鍛冶屋などの男が多い。そのそばには彼らの妻だろうか。ラージマウスやワーラビット、ハーピーなど山岳の森林を住処とする魔物娘が好奇心が半分、不信感が半分と言った感じで見ている。
職業や種族などに貴賎はないと言われるが、このジャバウォックはそうは考えない。自分より明らかに格下に見える男や種族に、フリーダは鼻を鳴らした。
わざわざ不思議の国から出張って来たが、期待外れだ。しかしこの村だけがこの世界のすべてではないだろう。ならばすぐにここを発って別の街に行こう。そう考えて羽ばたこうとした時、フリーダの後ろでざわめきが起こった。
振り向いてみると、群衆が左右に開けた。その中から現れたのは、黒いブリガンダインで身を固め手に長槍を持った男と、竜の翼と尾を持った魔物娘だ。その翼は背中からではなく、腕から広がっている。
『ワイバーンとその竜騎士……か』
目を細めてフリーダは二人を値踏みする。男は齢三十くらいに見えた。若さは成りを潜め、代わりに円熟さが出ている。なかなかいい男ではないかとフリーダは唸った。
しかし、その相手の女がワイバーンと言うのは気に入らない。ワイバーンもやはりれっきとしたドラゴン種でありスピードはトップクラスであるが、やはり原種らと比べると格としては見劣る。ましてや今彼女を見ているのは不思議の国を出たばかりの高慢なジャバウォックだ。
『ちょっと遊んでやるか……それで男が私にふさわしくて、そこの飛竜がつまらなかったら……私にも"食べさせて"もらおうか。見せてやろう。私がすべてを圧倒する淫らな竜であることを……』
挑戦的な考えをフリーダは胸に抱く。そのフリーダに男が声をかけた。
「どうも、魔物娘のお嬢さん。こんな山奥の村にようこそ。俺はこのベルクオロスの守り手、竜騎士のジェイクだ。観光と婿探しなら歓迎するぜ」
観光と婿探しなら。その「なら」の部分をジェイクは強調した。つまり、そうでないなら……この村に来た目的が略奪
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