勇者トラステンは焦っていた。街で仲間にした女盗賊、マクティラとはぐれてからだいぶ時間が経過している。
単独で魔物と面と向かって戦うには少々頼りない女盗賊が一人歩いているのはよくない。自分よりいくらか年上で冒険歴もその分長く、場数も踏んでいる彼女ではあるが、それでもかなり危険だ。そして自分も仕掛けやトラップには疎いため、彼女がいない状態でこのダンジョンを歩きまわるのは危険だし、突破はできない。目的のアイテムも手に入らないだろう。
だがそう言う損得抜きに、トラステンはマクティラのことが心配だった。彼女とは街で知り合ってパーティーを組み、ほんの数日の付き合いの上、勇者にとってはいくらでも替えの効く人材ではある。しかし、そうは考えないのがトラステンだった。
「マクティラー!? どこにいるんだー!?」
敵地の中で大声を出す。愚かで危険極まりない行動であるのだが、そうまでしてでもトラステンはマクティラを探していた。
だが返事はない。まだ幼さの残る、少年から青年へと移りつつある顔をトラステンはしかめた。焦りばかりが彼の中で積もっていく。そして焦りは迷いを生む。
はたしてこの旅、勇者として魔物を倒していってやがて魔王を倒す旅と言うのは正しいのだろうか。何度か彼は魔物と交戦し、撤退を余儀なくされていた。幸か不幸か、全て番いがいる魔物娘だったため、捕まって強引に契を交わされたりすることはなかったのだが。
魔物娘に負けるたびに、人間と魔物娘の実力差を思い知る。魔物娘ですら勝てないのに魔王にどうして勝てようか。そもそも、どの魔物娘も人間の男を夫とし、家族で仲良く平和に暮らしていただけだった。少々、淫らが過ぎていて教団の国出身の彼としては目を背けたくなるような物だったが。それでも、その平和な家庭をわざわざ壊すことに意義はあるのだろうか。
トラステンは頭を振った。今それは考えるべきではない。今考えるべきことは早くマクティラと合流すること、そしてこの洞窟の奥にある、魔物の力を弱めることができるという噂の剣を手に入れることだ。
「……んっ……ぁん……
#9829;」
不意に、張り詰めた雰囲気に相応しくない声をトラステンは耳で捕らえた。苦しげでありながら、何かドキドキとしてしまうような声。
女の嬌声だ。
『……どこかの魔物が旦那とよろしくヤっているのかな?』
番いがいる魔物はこちらから手を出さなければ襲ってくることはない。ある意味安全だ。だがその近くに魔物がさらにいる可能性もあるし、仲間を呼ばれる可能性だってある。自分から近づく必要性はないだろう。
しかし、妙な胸騒ぎがして、トラステンは声が聞こえる方向に足を向けた。歩をすすめるにつれて声はどんどん大きくなってくる。そして角を曲がったところで、声の主の影を見つけた。
巨大な球状のスライムに女が跨っていて、喘いでいた。ほとんど全裸で、彼女が身体を揺らすたびに乳房の影が上下にゆさゆさと揺れる。
トラステンは腰の剣に手をかけた。その目は警戒に細められている。見たことがない魔物だ。
女が跨っている物は確かにスライムで、人ならざる物だ。はたしてこれは魔物なのだろうか? 今日の魔物は魔物"娘"の名の通り、女性の姿をしている。とすると、上に跨っている女性が魔物の本体と考えるべきだろう。
勇者として駆逐しても良いのだが、今はその時間すら惜しい。トラステンは角を曲がらずに直進しようとした。その時、女が声を上げた。
「あっ! いやぁああ! も……やめてぇえ!」
喘ぎ声混じりに紡ぎだされる、許しを乞う声。スライムと女が合わせて魔物娘だったら、こんな言葉は言わないだろう。とすると、信じがたいことだが下にいる異形のスライムが魔物で、上にいるのはそのスライムに犯されている女ということになる。
そして、その声はトラステンにも聞き覚えのある声だった。こんな調子の声を聞いたのは初めてだったが。
「マクティラ!」
近づくと女の姿がはっきりと見えてきた。はたして、スライムに跨っているのは探していた女盗賊、マクティラだった。革鎧や下着は溶かされてしまったのかつけておらず、ハリのある乳房がむき出しになっており、股間は浅くスライムに沈み込んでいる。おそらくそこをクチュクチュと攻められているのだろう。嬌声を上げながらマクティラはスライムの上で逃げようとするように身を捩っている。
「マクティラ!」
剣を抜き、突進しながらトラステンは呼ぶ。声に気づいたマクティラの目が喜びに輝く。
「トラステン!」
「うおおおおっ! マクティラを離せえぇ!」
一気に懐に潜り込んだトラステンはツヴァイハンダーを横薙ぎに振る。あまり手応えはなかったが、動揺したようにスライムがぶるりと揺れる。上に乗っていたマクティラの身体が前のめりに倒れた。
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