Assault and Parasite

「ちくしょー、しくったなぁ……まさかアタシとしたことがあんな簡単なトラップにかかっちゃうとはなぁ……」
 とあるダンジョンを一人愚痴りながら歩いている女がいた。よく日焼けしていて四肢は筋肉で引き締まっており、それでいながら胸には豊かな果実が実っている。胸と腰回りだけを覆った革鎧で包んでおり、その身体を惜しげも無く晒していた。どこか黒豹を思わせる雰囲気があり、油断のない目と身のこなしが、彼女がそれなりに
#27506;月を経て場数を踏んできた人物であることを物語っている。だがその割にはのんびりとしていて少し舌っ足らずな口調が幼い印象を与え、ギャップを醸し出していた。
 マクティラ。盗賊だ。
 盗賊とは一口には言ったが、彼女の場合は冒険者としての盗賊という要素が強い。手先の器用さを活かしてトラップの解除をしたり鍵を開けたりし、戦闘ではその素早さを活かした攻撃をする職業だ。
 今回、彼女はとある一人旅の勇者に請われ、あるダンジョンに一緒に潜ることになった。彼曰く、ダンジョンの最奥に重要なアイテムがあるらしい。
 正直、マクティラはそのアイテムに興味はない。興味があるのはダンジョンの道中で手に入る宝物と、勇者の所持金。
 このマクティラは冒険者としての盗賊でもあったが、コソ泥をする盗賊でもあった。一時的にパーティーに加わってその所持金をちょろまかしたり、あるいはその肢体を使って男の仲間を誘惑してうまいこと宝石を掠め盗ったり……そうして貯めた額は結構な物になっている。
 そのような小汚い思惑もあってマクティラは勇者、トラステンとともにダンジョンに潜ったのだが、突然上から扉が降りてきてパーティーを分断されてしまったのだ。トラップだった。
 こうしたわけでマクティラは一人ダンジョンを歩いている。先に進めばトラステンと合流できると信じて。
「にしてもやっぱり盗賊一人でダンジョンを歩くってのは、心細いなぁ……」
 きょろきょろと左右に目を配りながらマクティラは歩く。素早さを活かして奇襲をかけることを得意とする盗賊だが、それは仲間がいて初めて成り立つ戦法。一人で敵と遭遇してしまうと、逃げる以外の選択肢はない。
 道中で何体か魔物娘を見かけたが、相手することなく脱兎のごとく逃げた。
『けどもし、マンティコアとかアタシの手に負えないような魔物が出た時は……』
 考えたくもない。マクティラは頭を振った。そしてたとえであったとしても、自分の俊足で逃げ切ればいい。
 トラステンと早く合流できることを祈りながら女盗賊のマクティラはダンジョンを一人歩き続けるのであった。



 トラップもあったとおり、このダンジョンは人の手が加わっている。しかし、どうやらもともとあった洞窟を改良して作ったもののようだ。手をつけてなさそうな岩肌が壁や天井からときどきむき出しになっている。地下水脈が近くを通ったりでもしているのだろうか? その岩肌は黒々と濡れていた。
 天井からはぽたぽたと水滴が滴り落ちており、床に水たまりを作っている。そのことがマクティラの歩みをより慎重な物にした。スライム、レッドスライム、おおなめくじ……この洞窟で今までで見かけた魔物を思い出す。もともと彼女らが住みやすい洞窟が、さらに住み良いように造り変えられているのだ。
「……っ!」
 不意にマクティラは足を止め、ナイフを抜いて振り返った。何者かの気配を感じたのだ。相手を確認し、すぐに逃げられるように重心を後ろに置く。
 しかし、誰もいなかった。気配はあるが、何もいない。
ぴちょん……ぴちょん……
 天井から水たまりに滴りおちる音だけがあたりに響く。
『気のせいか……』
 マクティラはナイフをしまい、今まで進んでいた方向に向き直る。その時、ものすごい勢いで何かがマクティラの背中にぶつかってきた。
 べちゃりと、粘液質な音がする。
『スライム!? そんな!? さっき見たとき何もいなかったのに!?』
 驚愕しながらマクティラは一度しまったナイフを引き抜いた。その間も自分に奇襲をしかけてきた大きさ一抱え程度のスライムはうぞぞと動き、首でも締めにかかるかのようにまとわりついてくる。
「このっ……!」
 スライムを斬るべくマクティラは左手で首筋にある桃色の粘体をつかむ。そしてナイフを走らせた。だが刃は通っただけで、泥を斬るかのように効果がなかった。斬られた粘体はすぐにくっついて再生してしまう。
 マクティラが炎や氷の魔法や、魔法剣を使えたのなら、スライムにダメージを与えることができたかもしれない。しかし彼女は盗賊。そのような高度な戦闘の技は持っていない。
 自分の攻撃が無意味だと知り、マクティラの心に一気に恐怖が沸き起こった。その恐怖がさらに掻き立てられるような物を彼女は目にする。今、自分を襲っている魔物の顔だ。魔物
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