ソノ者ノ怒リ、買ウベカラズ

「クソッ! 離せ! 離せと言ってるんだ!」
 一人の女が宙に浮いてもがいていた。旅装束に鉄の胸当てを装備している。近くには彼女の物らしいメイスとラウンドシールドが落ちていた。
 彼女の名前はメプリ。いっぱしの旅の勇者だ。しかし彼女はこの通り、何者かに拘束され、敗北している。
 その拘束している物だが、ロープなどではない。かと言ってアラクネが張った蜘蛛の巣に絡まっているわけでもない。
 メプリは灰色の触手に四肢を縛られ、宙に浮かされていた。
「へっへーん、ルミル様の住処に土足で入り込んで暴れたってのに、ご命令に従えるかっての」
 メプリを拘束している魔物娘が嘲る。
 その魔物は人間と同じように手足を持っていた。服らしい物は身にまとっておらず、股間や胸の膨らみを灰色の粘体で包んでいる。格好以外は普通の人のように見える。
 だが、メプリを拘束している触手は、彼女の腰から生えていた。だがただの触手ではない。触手は先端に、黄金色に光る目玉がついている不気味な代物だった。それだけでも異様であったが、魔物にはさらに人ならざる特徴的な物があった。
 それは彼女の目……メプリを打ち負かした魔物には目が一つしかなかった。怪我などをしているのではない。鼻の上に大きな目玉が一つあるのだ。サイクロプスのように。
 ゲイザー。
 邪眼を持つ、単眼亜人の一種だ。
『クソッタレ、こんな気持ち悪い奴に……!』
 メプリが腹の中で舌打ちをする。そしてこうなった経緯を思い返す。

 ダリスウン山の頂上が暗い雲に包まれた、これはなにか強力な魔物が住み着いたに違いない。
 その噂をメプリは山の麓にある村で聞いた。真相を確かめ、魔物がいたならば討伐するべく、彼女は岩ばかりが転がっていて灰色で痩せている山を登った。
 山頂はたしかに黒い雲に包まれていた。しかしその雲は実際は雲ではなかった。何かガスか蒸気のようなもので、山頂にある洞窟から流れ出ていた。
その洞窟に住んでいたのがゲイザーのルミルだったのだ。
 初めて見たゲイザーの異様さにメプリはルミルを化物呼ばわりした。ルミルも突然の侵入者にそのような侮辱をされて穏やかではいられない。その場で戦闘になった。
 しかし戦いはほぼ一方的だった。リーチに差がありすぎて、メプリはルミルの懐に潜り込めずに攻撃を受け続けた。触手をメイスで叩くも、効果はほとんどなかった。
 そして四肢を拘束され、現在に至る。

「さぁてと、口だけ達者なこのおてんば娘にはお仕置きをしないとねぇ……?」
 にやにやと意地悪い笑みを浮かべながらルミルはメプリに言う。
「うるさい! ふざけるな! まだ私は……!」
「まだ? アンタにさっき以上の余裕はないと思うけど? 一方、アタシは"真の能力"を使ってないんだけど?」
「真の能力?」
 メプリの顔が引きつる。確かに今回ルミルは物理攻撃のみでメプリを屈服させた。他にも何か特殊能力があるのかもしれない。また「邪眼」と言われているその目を活かした行動をしていないのも気になる。
「見せてあげる……!」
 そう言ってルミルは触手の一つをメプリに向ける。その先端についている目玉の瞳がグッと、まるで蛇の瞳孔のように細くなった。
「……なんだ、不発か?」
 激痛や何かを警戒して身体を硬くしていたメプリだったが、何もないのでせせら笑った。ルミルはそれには答えず、逆に問いを投げ返す。
「アンタ、何もぞもぞしているの? もしかして、ムラムラしちゃった?」
「なっ……!?」
 突然の破廉恥な言葉にメプリは耳を疑った。いくら好色な魔物娘とは言え、こいつは何を言っているのか。
 だが
『うそ……アソコが……熱い……!? それに私……濡れてる……!?』
 言われた途端に、秘部が熱くなったように感じた。教団出身のメプリとて女。なんとなくいやらしい気分になることもあった。それでも故郷では自慰は禁止されている。故に掻きたくても掻けないような感覚に悶えるのであった。
 今、自分の身体に起こっている変化はまさにそれだった。
「はっ、くうぅう……何をした……? 催淫の魔法か……?」
「別にぃ〜? アンタがただ単にいつもムラムラしている変態さんだからでしょう〜?」
 わざとらしい口調でゲイザーはあざけってみせる。
「ふざけるな……! 私はお前らみたいな淫らな女じゃな……」
 語尾が弱くなり、最後まで言い切れなかった。本当にそうだろうか? 自分は清廉潔白な勇者だろうか? 言われてみれば、このような気分になったことは一度や二度ではないし、禁じられている自慰も隠れてやったこともある。そんな自分は、本当はルミルの言うとおり変態なのではないだろうか?
『そうそう。あなたは変態よ』『あの時の自慰も、ダメとは思っていても気持ち良かったでしょう?』『今も、あの時みたいにア
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