前編

きっかけは突然。それからもノリと勢いだった。


赤き翼を広げ、空気抵抗を弱めるために尾を下げ、アタシ、佐志原勇姫は学校の廊下を全速力で滑空する。
目的は購買のメロンパン!
「やっばー! 早く行かないと売り切れちゃうよ!」
時刻は12:25分! もう5分も経過している。大人気商品のメロンパンは3分もすればなくなってしまう可能性大なのだ。だが諦めてはそこで試合終了だ。そういうわけでアタシは高校の廊下を疾走し続ける。赤い翼と尻がある通り、アタシは人間じゃない。アタシはマンティコア。獅子の手足と竜の翼、蠍の尾を持つ、高位の魔獣系の魔物娘だ。もっとも蠍の尾は魔物娘の時代になってから少々変わったんだけど。
そんなマンティコアのアタシだ。すぐに購買につくことができるだろう。アタシは廊下を全速力で走り抜ける。
とそこに曲がり角から男子生徒が、よろけるようにして飛び出してきた。
「まず……!」
ブレーキをかけようとしたが間に合わない。鈍い音と悲鳴が響く。アタシとその男子生徒は見事に衝突した。これがバイクや車だったりしたら即死事故だね。アタシはその場で尻餅をつき、彼は1メートルほどぶっ飛ばされてしまった。彼の手にあったトートバッグが宙を舞い、床に落ちる。
「イッたぁ……ちょっと、どこ見てんだよ!」
走ってはいけない廊下を走っていたアタシの方が悪いのだが、アタシはそう悪態をつかずにいられなかった。
「うぅ……ごめんなさい……」
気弱そうな男子生徒はふらふらとしながら起き上がろうとする。あ、やば……鼻血出してるし、額を切って血出してんじゃん……これはさすがにまずい。メロンパンも惜しいけど怪我させた人間(それも男)を放っておくほど薄情なアタシでもない。
「こ、こっちこそゴメン……大丈夫? 立てる?」
「だ、大丈夫です……」
そう言う男子生徒の顔が見る間に赤くなった。何事だろうか。彼の視線の先を見ると、彼が持っていたトートバッグがあった。蓋やチャックがないトートバッグから中身がこぼれ落ちている。その散乱したバッグの中身には、なんと、エッチな本があった。これは恥ずかしい。
素早くアタシは本や他に散らばった物をバッグの中に放り込んだ。
「はい、どーぞ。それにしても、まったく……学校にこんなエッチな本を持ってくるなんて、いやらしい……」
「あ、あううぅう……」
男子生徒は縮こまるばかりだ。うめき声の調子の通り、あんまり気が強くなさそうな奴だ。身長もアタシより少し低い……ちょっと、Sっ気がそそられちゃうかも。
っと、そうはしていられない。彼は頭を切って出血しているのだ。擦り傷程度だろうけど、放置して血をダラダラ流し続けるのも、いろいろと良くない。
「とりあえず保健室行くよ。ほら!」
「だ、大丈夫です! 一人で行けます!」
「いーのいーの! 遠慮しない! ぶつかったアタシが悪いんだし……ほら、行くよ!」
渋る彼を引っ張ってアタシたちは保健室に向かった。 ……一緒に行かないとエロ本のことをバラすって脅し、さらに彼が持っていたメロンパンを分けるように強請ったのは内緒だ。



「ちょっとした擦り傷ね。鼻も折れていないし。消毒して絆創膏貼ればOK! はい、おしまい」
保健室の先生が手早く処置して去っていく。けど、何かあったらまずいから少し休んでいけとも言った。
保健室のベッドには、アタシと件の男子生徒、丸山裕が残される。
「ホントにごめんね……アタシが暴走していたばかりに……」
「い、いえ、ぼ、僕の方も、ふ、不注意でした」
やけにつっかえながら、裕は答えた。ちなみに彼が敬語なのは、アタシが2年生なのに対し、彼が1年生だからだ。
「まあ、これから互いに気をつけようね……それで、だ」
アタシは裕の方に向き直った。そして右手を突きつける。
「これはどうしたの?」
アタシの手にあるのはさっきのトートバッグに入っていたエロ本だ。さっき、裕が校医の治療を受けている間にこっそりと拝借した。
彼の目が見開かれ、顔が真っ赤になる。返してくれと言った感じで手を伸ばしてくる彼をアタシは強引に尻尾でベッドの上にねじ伏せた。そして悠々とそのエロ本を開く。裕はもがくが、アタシはマンティコアだ。ひょろひょろした彼の力じゃびくともしない。
エロ本は、いろんな若い女のコの裸や下着姿の写真が載っている雑誌だった。魔物娘も混ざっている。
「ほうほう、こんなのが好きなんだ。健全で何より」
「か、返してくださ……」
「しっ! 騒ぐと先生にバレちゃうよ? さすがにこれが先生にバレて没収されるのはまずいでしょう?」
片手で裕の口を塞ぎながらアタシは声を抑えて言う。それを言われてしまっては、彼も何も言えなくなってしまったようだ。すべてを諦めたかのように全身からがっくりと力が抜けた。
それを確かめてからアタシはまたエ
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