ぼくのかんがえたさいきょうの……

「朝ですよ、社長。起きてください」
朝、その鈴のような声で目が覚めた。ひとりで寝るにしては贅沢なセミダブルのベッドから身体を起こして伸びをする。そして自分に起床の声をかけてくれた者を見る。
私の秘書、ピクシーのステラがひらひらと宙に浮いてこちらを見ていた。私が起きたのを見てステラの顔が朝日以上に輝く。
「あ、社長。おはようございます。今日も一日よろしくお願いします」
すでにシックな黒いタイトスカートのスーツに身を包んだステラは、宙に浮いたまま一礼する。スーツの胸元とブラウスは、そこに実っているたわわな果実で押し上げられていた。
「ああ、おはよう。今日の予定はどうなっていたっけ?」
「今日は8:00から役員との朝食会議があります。9:00より西風コーポレーションとの会議があります」
キビキビと私の秘書は答える。その間に私はベッドから下りて小さな冷蔵庫を開け、中からグレープフルーツジュースを取り出し、グラスに注いで飲んだ。爽やかな酸味が私の頭をとろけた睡眠状態から覚醒させていく。
「11:00に霧の大陸に向かうために空港へ。そこで昼食となります。14:00に霧の大陸に着いてホテルに入り、16:00から福来レジャー会社青都社と福来観光会社青都社とのプレゼンテーションとなっております。プレゼンテーションが何時に終わるかは不明ですが、それが終われば自由です」
「プレゼンの資料は?」
私が訪ねるとステラの表情が少し曇った。
「申し訳ありません。8割がた完成しているのですが、あと少しだけ時間が必要です。10:00にはできるかと」
「うーん……まぁ、いっか。西風コーポレーションとの会議が終わるまでには完成させておいて。その時にチェックする。先に会議室に行っておいて」
「かしこまりました。失礼します」
彼女が一礼したのを確認して私はグレープフルーツジュースを飲み干した。今日も、華麗で優雅に見えるがハードで神経を削る、福来ホールディングス株式会社 代表取締役としての一日が始まる。



午前中の業務は順調に終わった。プレゼンテーションの資料も準備ができた。今、私は空港に向かうためのタクシーの中にいる。その間も仕事だ。役員の報告書をチェックする。
「むぅ……」
役員のひとりの報告書に私は眉をひそめる。問題の報告だ。結構、骨の折れる事態になっている。早めに私に報告して対処しておけばなんとかなったものを……
彼は自分の実力にかなりの自信を持っており、確かにそのとおりだ。しかしその実力を過信するがあまり、人に頼るのが苦手だったりする。その結果がこれである。
「『まったく……連絡・報告・相談は早くしろと言っているのになんでコイツはこうも問題の報告が遅いんだ……』ですか?」
私の心を読んだかのように、ステラが私の気持ちを口にする。私の頭から吹き出しが出ていてたり、彼女が脳内を覗き込んだり、あるいは私と彼女の脳に何か見えないラインでつながっていたりするのではないかと思うほど彼女は私の感情を見抜く。「秘書として当然です」と彼女は言うが。
「ツ○ッターに呟きますか?」
私の肩にちょこんと座っているステラが訊ねる。彼女はときどき、私のツ○ッターのゴーストライター的なことをやっている。こうして私が忙しい時に、私に代わってつぶやいてくれるのだ。なお、私が好き勝手につぶやきたいので福来ホールディングス代表取締役の名は伏せている。
「ああ、頼む」
「かしこまりました。えーっと『まったく……連絡・報告・相談は早くしろと言っているのになんでコイツはこうも問題の報告が遅いんだ……』っと……それから『ホウ・レン・ソウは大事だニャー』」
「『ニャー』は止せ」
思わず苦笑が漏れる。彼女が俺の横で、首をこちらに向けた気配がした。
「しかし社長。あんまりネガティブツイートばかりしていると嫌われますよ?」
「それもそうだニャー」
「なんで現実の方で『ニャー』って言うんですか!」
ペチンと彼女が私の頬にツッコミを入れる。秘書にしてはちょっと度が過ぎた行動だが、構わない。これくらい気さくにツッコミを入れてくれる方が会話が楽しかったりする。暇なとき、いつも横、それも肩の上にいてくれる彼女は実に、退屈の慰めになってくれる。
「ニャーはともかく、まあ変態発言とかしているから大丈夫だろ」
「全然大丈夫じゃありません。そしてそれを今私に言うのはセクハラです」
クールな調子でステラは言う。実際は自分も下ネタが好きなくせに……とある世界でのレポートで大きな角を二本持ったドラゴン相手に『あんなの入れられたらステラ壊れちゃう』と自分でコメントしたのを忘れたとは言わせない。だがそれを言ってしまうのは彼女が本当に怒ってしまいかねないので黙っておく。
「空港まであとどれくらい?」
「30分ほどでしょうか」
「分かった
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