奥手な旦那とコカトリスの場合

「ひぇっひぇっひぇっ……毎度ありぃ」
人食い箱ことアニータは海辺の街を離れ、別の親魔物領で行商をやっていた。
今日も売れ行きは上々だ。魔界の特産物はもちろん、ちょっとした宝石や服、下着など魔物娘が着飾るものなどが魔物相手にどんどん売れた。またそれだけではなく、他の国の硬貨や壷などが魔物娘の夫の趣味でも売れた。
自分は魔物だが、求められれば魔物絡み以外のものだってなんだって売る……それが人食い箱のポリシーだ。
「あ、あ、あ、あの〜」
突然、おどおどとした声がアニータにかけられる。見てみるとコカトリスがひとり、脚をがくがく震わせながらこちらを見つめていた。
「へっへっへ……いらっしゃい。今日はなにをお求めでございやしょう?」
「えっと、そのぉ……」
コカトリスはもじもじとしている。言いにくいものを買いたいのか、それとも欲しいものは確かにあるのだがそれが具体的に何なのか本人の中でも分かっていない……彼女の様子を見てアニータは考えた。
「ふーむ、何か言いにくいものでございやしょうか? 人に聞かれたくなかったらこの箱の中にお招きいたしやすが……」
「い、いえっ! そうじゃないんです!」
びくっと身体を震わせて、コカトリスはわしゃわしゃと羽毛に包まれた手を振って拒否する。とすると後者が理由のようだ。
「どんなものをお求めでしょうか。『こんな感じの物』と曖昧なものでも悩み事でもなんでも、ご相談に乗りやすぜ」
アニータがそう言うと、コカトリスは少し落ち着いたらしく、身体の震えが収まってきた。
「えっとですね……最近、夫がエッチをしてくれないんです」
「あ〜、それは大変でございやすね……一体何が?」
「そもそも旦那は、エッチに対して受身なんです」
チロルと名乗ったコカトリスの話をまとめるとこういう事になる。
コカトリスと言うのは非常に臆病な魔物であり、人間の男を前にしても襲いかかるどころか逃げ出してしまう。しかし未婚のコカトリスの身体からは強力なフェロモンを発しており、このフェロモンは男の理性を狂わせ、彼女達を追いかけるように仕向ける。結果、コカトリスはその男に襲いかかられて犯されて結ばれる……こういう少し特殊な方法で男を手に入れるのだ。
男を手に入れたコカトリスはフェロモンを発しなくなる。つまり、男の理性を狂わせると言うことがなくなるのだ。
「それで、結婚するときは自分を犯しにきた旦那さんも、元は受身だから、お嬢さんを襲いにかからないと……」
「ふわあああっ!! は、恥ずかしいから言わないでください〜!!」
恥ずかしそうにまた手をわしゃわしゃと振ってチロルは顔を赤くして叫ぶ。それは失礼したとアニータは謝ってから、にっこりと笑う。
「大丈夫ですぜ、お嬢さん。結婚の時と同じように旦那が犯しにかかるようなアイテムがありやすぜ。えーっと……」
目的の物は箱に飛び込まなくてもあるはずだ。アニータは片手を箱の中に突っ込んでごそごそといじる。
そしてその目的の物を取り出した。
「こ、これは……きのこ?」
「左用でございやす。これを旦那に食べさせればあの時と同じように熱く激しくお嬢ちゃんを愛してくれること、間違いなし!」
そう言ってアニータはチロルにキノコを突きつけた。
きのこは傘がどちらかというと小さく、傘の淵まで連続するように茎が伸びている。そして茎の部分には青筋のような物が走っている。
マタンゴモドキやネバリタケと異なり、そのキノコは男性器をより連想させるフォルムであった。
タケリダケだ。
「こ、これを旦那に食べさせるんですね?」
「左用にございやす」
「いくらですか?」
アニータは少し首をひねったが、指を三本立てて見せた。
銀貨3枚だ。
チロルは頷いた。
「はい、買います」
「ひぇっひぇっひぇっ……毎度ありぃ」
「で、でも……これを旦那に食べさせられる自信がないです……」
買ったはいいが、その問題に気付き、コカトリスはしゅんと肩を落とす。おや、とアニータは方眉を掲げた。
「どうして自信がありやせんか?」
「だ、だって正面から食べてなんて言えないし、ご飯にも混ぜるのは大変だし、何より何か考えているのがバレちゃいそうで私……」
あうあう、とチロルは唸る。
その様子を見て、彼女は緊張してしまって、このキノコを夫にそれとなく食べさせるのは難しいだろうと考えた。臆病な心はその緊張や不安感などをより高めてしまう。
「とすれば、これは如何でございやしょう?」
再び宝箱に手を突っ込んで、アニータはある物を取り出した。少し緑がかった水色をした、爽やかな色のロウソクだ。
「それはなんですか?」
「これはストイック・ラヴってハーブを練りこんだアロマ・キャンドルでございやす」
ストイック・ラヴのアロマ・キャンドルは、落ち着いた爽やかな香りを漂わせ、冷静な思考を保つことができ
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