後編

アポピスのハーメスロータスがファラオのネフェルランタナより命を受けていた頃。
勇者の一行は遺跡の入口にまでたどり着いていた。
「……おかしい。衛兵の姿がない」
ハーフプレートアーマーで身を固め、油断なく腰の剣に手をかけて周囲の様子を伺っているのは勇者のリデルだ。
「なんでしょう。不気味な物を感じます」
同じように周囲の様子を見ている茶色の麻のローブを身にまとい杖を持っている青年は攻撃魔法も回復魔法も操る魔術師、サボイである。
「……あるいは衛兵なんぞに頼らんでも、トラップで侵入者を排除できると思っているのかもしれないわね」
そう言ったのは薄衣の上に簡単な革鎧だけといった格好の女盗賊のライラだ。リデルやサボイと違い、褐色の肌を持っている。実は彼女は昔からリデルやサボイと行動しているわけではなく、最近この遺跡を攻略するためにリデルとサボイからスカウトされた者だ。
「……それもそうかもな。では中に入ったらより警戒しなければ……行くぞ!」
「そうは問屋が下ろさないわね」
リデルが号令をかけようとしたその時、三人の頭上から声が響く。入口の高台の上に一匹の魔物が腕組みをして立っていた。毒々しい紫色の肌をしており、豊かに実った乳房は銀装飾で覆っているだけの卑猥な姿をしている。腕や腰にも銀装飾が付けられているが、それはアクセサリーであると同時にどこか装甲のような印象もあった。そして腰から下は黒にも近い紫色の鱗を持った蛇であった。
アポピスのハーメスロータスだ。
「なっ!? 魔物!?」
「しかも結構手練みたいですね……」
「手練なんて物じゃないわ! アイツ、アポピスはファラオを凌ぐ実力者よ!」
ハーメスロータスを見て口々に言いながら、勇者のパーティーは武器を構える。一方、ハーメスロータスは眉をひそめていた。本来は女盗賊の言うとおりファラオの上に立つ自分が、そのファラオによってついさっき屈服させられた。その雪辱を思い出したからだ。
ハーメスロータスは高台から降り、入口を塞ぐようにしてハーメスロータスは身構えて立つ。
「忌々しいけど私はファラオからあんたたちを撃退するように言われているの。悪いけど全力で叩き潰させてもらうわ。そして男の一方は私の婿に迎えてあげる
#9829;」
一匹のアポピスと三人の勇者のパーティーの戦闘が今、遺跡の入口で火蓋を落とされた。


「うおおおおおっ!」
剣を大上段に振りかぶってリデルが突進してくる。振り下ろされたその刃をハーメスロータスは左手を掲げ、銀のバングルで受け止めた。そのまま身体をひねって掌底をリデルの腹部に叩き込もうとする。間一髪リデルは身体を反らしてそれを躱し、牽制に剣を横薙に薙いで跳び下がる。
「……燃えよ!」
それとほぼ同時にサボイが魔法攻撃を放ってきた。ファイアボールだ。躱しきれない。舌打ちしながらハーメスロータスは掲げていた左手を振り下ろした。指先から黒い稲妻が走る。空中で火炎弾と黒い稲妻がぶつかり、火花を散らして二つとも消え去った。
「私のファイアボールを無詠唱の呪文で相殺……!?」
サボイが目を剥く。アポピスの実力を見て驚いたのだろう。しかしそれを確認している暇はない。ハーメスロータスは後ろに振り返りながら右肘打ちを繰り出した。
「くおっ……!」
背後から急襲しようとしていたライラがトンボを切って後ろに跳んだ。追撃をしたいところだったがそうもいかない。今度はまたリデルがハーメスロータスに襲いかかってくる。しかもサボイが攻撃力上昇魔法のサポートをしていた。赤いオーラを纏った刃がハーメスロータスに向かって突き出される。ハーメスロータスはそれをスウェーイングで躱した。身体を反らした体勢から左チョップを叩き込む。躱しきれないと判断したか、リデルはそれを魔力のこもった刃で受け止めた。しかし防御した瞬間は、動けない事を意味する。
「ルーアッハ、風よ吹け!」
突き出されたアポピスの手から強力な風魔法が放たれる。勇者の身体が宙に投げ出され、地面に叩きつけられて引きずられた。
「あらぁ? 意外と勇者と名乗る割には見かけ倒しなのね」
腰に手を当ててハーメスロータスは挑発をしてみせる。
「ず、図に乗るなよ、蛇が……」
「お前を倒して、ファラオも倒す!」
リデルとサボイが左右に散開して挟み撃ちの状態を取ろうとする。一方、ハーメスロータスの目は怒りに燃えていた。自分を見ておらず、この先のファラオだけを見ている二人の姿勢が彼女の逆鱗に触れたのだ。
「どいつもこいつもファラオ、ファラオと……腹立つわね!」
ばっと彼女が腕を開くと、その手に魔力塊が無数に形成された。ダークマターやリリムが作り出す淫らな黒い魔力塊とは違う、非常に攻撃的な物だ。それをまる
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