「大変です! 大変です! 緊急事態! 緊急事態ぃい!」
「何事ですか、騒々しい」
ここはファラオのネフェルランタナが支配する遺跡。その主の間に伝令のマミーが転がるようにしてやってきた。夫のクリネスとキスなどをして戯れていたネフェルランタナはその美しい顔を軽くしかめる。
しかし伝令のマミーが伝えた情報にはネフェルランタナも冷静ではいられなくなった。彼女の顔がサッと青くなる。
「アポピスがこの遺跡を目指して侵攻しています!」
アポピス。旧魔王時代、ファラオの目覚めを防ぐために彼ら彼女らを闇に葬り去った、冥府の力を得た闇の化身とも言える蛇である。今でこそファラオを闇に葬ったり殺すことこそないものの、ファラオの天敵であることは変わらない。その毒牙にかけられた魔物娘は理性を捨て去り、男と交わろうとする。しかも厄介なことに、アポピスの毒は永遠に消え去ることはない。
そして、その毒の影響を受けるのはファラオとて例外ではない。アポピスの毒牙に犯されたファラオは国のことなど忘れ去り、夫と寝室にこもりっきりとなって交わることとなる。空いた王座にはアポピスが就き、王国は彼女のものとなり、魔界も明緑魔界から暗黒魔界になるのだ。
「くっ、なんてこと……」
ネフェルランタナとクリネスはくちびるを噛む。魔物娘からすれば、魔界の性質が変わったりこそするものの、淫らに過ごせることには変わりないのだから大したことではないのかもしれない。しかし、ファラオ自身にとっては、とりわけネフェルランタナと夫のクリネスにとっては大問題だ。
ネフェルランタナは人間時代、自分の代で国を終わらせてしまったことを悔いていた。魔物娘のファラオとしてようやく復活した今、王国の復活と血筋の復活も果たせるチャンスが来た。しかし、ここにきてアポピスの襲撃である。
命こそ取られることはないが、また自分の王国は他者に蹂躙され、自分は裏舞台へと姿を消されてしまうのか。ネフェルランタナは頭を抱えた。
クリネスも黙って腕を組み、唸り声を上げる。しかし、少ししてふと彼はその顔を上げた。その目には希望の光が灯っている。
「アポピスがここに来るまでどのくらい時間がありますか?」
「10分もかからないかと……何かいい案が思いつきましたか?」
「……マミーが一人、彼女に噛まれてしまうことになりますし確実に成功するとは限りませんが……手はあります」
「さぁ、そこを退いてよ。それとも私とやる気?」
その頃、件のアポピスはネフェルランタナの住まう遺跡の入口にまで迫っていた。彼女の名前はハーメスロータスと言う。
「くっ……ネフェルランタナ様のため、ここは一歩も退かぬぞ……!」
門番を務めるマミーが二人、魔界銅製の槍を構えてハーメスロータスの行く手を阻もうとする。しかし腰が少し引けている。ぎらりと光る、蛇のように縦長の瞳孔を持つ目。禍々しい紫色の肌。押しつぶされると感じるほどのプレッシャー。それらにマミーたちはすでに怯えていた。
逃げ腰のマミーたちを見てハーメスロータスはふんとバカにしたように鼻を鳴らして笑う。フッと彼女が手を振ると、指先から黒い粘液塊が迸った。その塊は片方のマミーの股間に命中する。
「やっ!? なにこれ!? あ、あああ……」
驚きの顔が見る見るうちに快楽に染まる。粘液塊はマミーの性器を攻めているのだ。ダークマターのあの粘液塊と同じように。
相方のマミーが驚いている間にハーメスロータスがそのマミーを押し倒す。そしてその首筋に毒牙を突き立てた。アポピスの強力な淫毒がマミーに注がれる。あっと言う間にマミーの目が焦点を失い、力なく崩れ落ちた。
「くっ、あ……あ、んふああああ……キツォスぅ……」
崩れ落ちたマミーは立ち上がり、夫との交わりを求めてその場を去った。ふらふらと歩く彼女の股間は既に濡れており、発情したメスの匂いを漂わせている。
「あっははは! たわいないものねぇ」
立ち去ったマミーを見送り、さらに地面に転がって粘液塊の攻めに悶えているマミーを見下ろしながらハーメスロータスは高笑いをした。そしてぎらりと目を光らせながら呟く。
「ネフェルランタナ……別に恨みはないけど、ここの王の座は退いてもらうわ。そして私がこの国の王となる!」
悠々と、蛇の下半身をうねらせながらハーメスロータスは遺跡の中を進んでいった。
主の間の天井裏にハーメスロータスは潜んでいた。天井の石畳をひとつ取り除けば中の様子を伺える。玉座に一人の女が腰を下ろしていた。金の装飾で頭や胸元、四肢を余すところなく飾っていて高貴な者に見える。だがそれを見てハーメスロータスはまた鼻を鳴らした。
「ふん、バカみたい。替え玉なのがバレバレだわ」
発する魔力でそれくらいは分かる。おそらく、ネフェルランタナの服を借りた
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