セルキー デレ化 大作戦

「今日もまた彼女、ぶっきらぼうだったわね」
「ねー、そうだよねー」

ここは常冬の港町、ガーヴァニ。そのある家のリビングで、同じ男を夫に持つグラキエスのキーラとイエティのソフィアはジャム入りの紅茶を飲みながらおしゃべりをしていた。ちなみに夫は今、ここにはいない。

「半年前に遭難しかけたアキムを助けて以来、毎週のように様子を見に来るのにねー」
「どう考えても彼女もアキムのこと、好きよね……いい加減認めればいいのに意地張るんだから……」

二人が話している"彼女"……それはセルキーのオリガのことである。彼女たちや夫のアキムと知り合ったのは先ほどの会話のとおり。
漁に出たアキムの船が潮に流されてしまって帰れなくなり、食料も尽きて困っていたところをオリガが食料を分け、さらにガーヴァニの近くまで誘導してくれたのだ。そんなことがあってから、なぜかオリガは毎週のようにアキムのところに訪ねてきて、様子を見たり食料を押し付けていったりする。

「と言うか、アキムもよくトラブルに陥るわよね……私との出会いは雪騙し草を採りに雪山に来たら遭難した、だったし……」
「それをキーラに会う前にー、あたしと会うときも同じようなことをしていたしー……」

自分たちの出会いを思い出し、二人は苦笑する。二人の夫、アキムはかなりのドジであった。忘れ物や転倒はしょっちゅう。遭難だってソフィアとキーラ、そしてオリガの時と3回もしている。
それでも、なぜか憎めないのがアキムであった。その性格は、本人にそのつもりがなくても魔物娘たちの母性本能のような物をくすぐり、ひきつける。だからソフィアはアキムを助けたらそのまま恋人となり結婚した。キーラも助けたのちに気になり、長く接しているうちに魔物の本性が現れてアキムと交わり、結婚した。
そして今、アキムを助けたオリガがアキムのことが気になっている模様だ。バイコーンもびっくりのハーレムが形成されそうだと苦笑しながら二人は紅茶を一口飲んだ。飲んだところで話がオリガの事に戻る。

「それにしても彼女、いつデレるかな……」

キーラがぽつんと呟く。オリガが本心をあらわにすると言うことはアキムと交わるということになるはずなのだが、既に氷の心が溶けてしまっている彼女は別に問題ないと思っているようだ。むしろ、魔物娘が淫らではなく、愛する男と結ばれない方が問題だと思っているらしい。ソフィアもまた同意見だった。
そう言う理由でソフィアとキーラはいつオリガが素直になるか、どのようにして素直にさせるかと言う話をよくしている。

「うーん……セルキーってあの毛皮を脱いだら甘えん坊な性格になるらしいよー?」
「それは本当?」

ソフィアの言葉にキーラが食らいついた。雪山での生活が長かった彼女はセルキーの生態を知らなかったらしい。ソフィアが説明する。
アザラシと人魚が合体したような魔物であるセルキーだが、そのアザラシの毛皮は「肉体」ではない。どちらかというとサハギンの鱗などに近く、着脱が可能だ。その毛皮はセルキーたちの魔力によって纏っているだけで温かさを感じ、寒さから身を守ってくれる。また、その毛皮が彼女たちに精神的な安定ももたらしており、そのためセルキーは概して気丈な性格をしているのだ。
だがその毛皮を脱いだらどうなるか。その身体と心を守っていた毛皮が身体から離れると、セルキーは肉体的な寒さだけでなく心の寒さ、すなわち孤独感を味わうことになるのだ。

「なるほど……私たちグラキエスがもたらす魔力の効果を受けるようなものなのね」
「そーゆーことー。だからオリガがあの毛皮を脱いだらー……」
「いつ、どこで脱ぐのよ? さすがに彼女の住処で脱いで、全裸のままここまで来るとは思えないわよ?」
「それもそーねー」

オリガが毛皮を脱いでここに来ることはないだろう。だから、彼女が毛皮を脱ぐのを待っていてはダメだ。

「じゃー、ここで脱がしちゃおーかぁ……あたしがおそいかかってー……」
「いや、それはダメでしょう……喧嘩になったら大変よ。でも、ここで脱がせる以外にはないわよね……」

ソフィアの意見を却下し、キーラはうつむいて考える。ソフィアも白くてふわふわした手を顎に当てて首をかしげて考えた。
しかし、なかなかいい案は出てこない。先に諦めようとしたのはソフィアだった。放置していた紅茶のことを思い出す。

「いけなーい、お茶が覚めるー」
「そうだったわね……ん、んん?」

キーラもちょっと考えるのを休もうと紅茶を一口飲んだが、何があったのか目を見開いた。その目はキラキラと輝いている。

「閃いたわ! 彼女を"脱がせる"方法が!」
「なになにー、教えてー?」
「ええ、ちょっと耳を貸して……」

ソフィアの耳元にキーラは口を寄せ、こしょこしょと何事かを囁く。うんうんとソフィア
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