イチャエロする夫婦の場合

「それで、姉と弟、禁断の恋は実ったのね!? や〜ん、素敵ぃ♪」
とある家の一室で黄色い声が響いた。
その声を出した彼女は両手を頬に当てて身悶えしている。
艶やかな桃色の髪が特徴的な美女だ。
服装も挑発的で、上半身はブラジャー型の水着と簡単な装飾のみであり、たわわなバストや腰のくびれを惜しげもなく晒していた。
そして下半身はと言うと……真っ赤な鱗を持った魚の物だった。
メロウ。
マーメイド種の中でも最も好色とされる、海の魔物娘だ。
自分が恋人や夫と共に過ごし、交わることはもちろん好きだが、メロウはとりわけ他人の色恋沙汰や情事、艶話、猥談を聞くのを好む。
今、彼女はとある人物から、堕落の果実を口にすることで結ばれることとなった反魔物国家に住んでいた姉弟の話を聞いていた。
名前はプライアと言う。
ちなみに彼女は、メロウに特徴的な赤い帽子を被っていない。
つまり、彼女は既婚者だ。
「それで、二人は今はパンデモニウムでヤりまくっているわけね?」
「らしいですね。いやはや、二人を結ぶ手助けができてあたしも、光栄でございやすよ、ひぇっへっへっ」
独特の訛りと笑い声が、彼女の言葉に答えた。
そう、件の姉が堕落の果実とネバリタケを買った商人と同じ人物……魔物の商人だ。
「さすが”人食い箱”さんね」
「へへっ、ちゃんとアニータって名前があるのにそう言われるとなんかむずがゆいんでさ」
アニータと名乗った商人はかりかりと頭を掻いた。
パッと見では人間と外見は大して変わらない。
透けているレースのような生地とリボンを組み合わせただけのような露出度の高い服を身にまとっていた。
服装はそんな破廉恥とも言える代物だが、少なくともプライアのようにどこか身体の一部が著しく人ならざるものではない。
だが彼女の耳は魔物娘らしく尖っていた。
そして何より目を引くのは、彼女が腰掛けている宝箱……先日の反魔物領で商売をした時も傍らに置いていた物だ。
これはただの箱ではない……彼女の身体の一部である。
そう、彼女の種族はミミックだ。
“人食い箱”という異名は、その独特の訛りが人を食ったような態度であることと、人間達を次々と魔物化・堕落させていることから、彼女のお得意先である上級の魔物娘から言い始められたものである。
「まぁまぁ、そう謙遜しない。お話は楽しかったわ。お礼に私の血を分けてあげる」
「滅相もない! ……と言いたいところでございやすが、くれると言ってくださるのならちょうだいしやしょう……ほんの小瓶でいいですぜ」
「はいはーい。ではちょっと席を外すわね。さすがに流血しているところを見せるわけにはいかないからねぇ……」
そう言ってプライアは人食い箱から小指ほどの瓶を受け取り、部屋に消える。
しばらくすると、小瓶に血を満たした状態で戻ってきた。
「ひぇっひぇっひぇっ……ありがとうございやす。ついでに、何か買いませんか?」
「あら、商売上手ね。そうねぇ……何か旦那とイチャイチャできるアイテム、ないかしら?」
「少々お待ちください」
そう言うと彼女は宝箱の中に飛び込んだ。
箱の周はアニータの胴回りよりは大きいので彼女の身体は通る。
だが高さなどを考えると、宝箱は彼女の身体が完全に入る大きさとは考えられない。
その箱の中に彼女はいとも簡単に飛び込んで姿を消した。
やはり、異空間につながっているミミックの宝箱だからこそできる芸当だ。
ゴトゴト、ガタガタ……ドカンっ! バキン!
宝箱が揺れ、何かがぶつかり合うような派手な音が立つ。
「……いつもこの商品をとってくる様子を見ているけど、一体何をしているのかしら?」
何度か彼女から商品を買ったことがあるためか、大きな音がしても平然としているプライアだったが、やはり不思議そうだ。
時には中から轟音や爆発音、雷のような音が響くこともある。
そうしているうちに、彼女がひょこりと箱から身体を出した。
「お待たせいたしやした。こんなのは如何でしょう?」
小さな篭を彼女はプライアの前に差し出した。
中には半透明な赤い果実と青い果実が茎で繋がったペアの状態でいくつか入っている。
「夫婦の果実?」
「さようで。ここから遠く離れたブラントーム地方の高級品でございやすよ?」
「ブラントームかぁ……陸路でしか行けないところだから、確かにここじゃ手に入りにくいわね」
話を聞いてこくこくとプライアは頷く。
そしていくらと訊ねた。
人食い箱は指を三本立てる。
つまり、銀貨三枚……ブラントーム地方でのこの果実の値段と同じだ。
運送費などを考えれば普通は金貨数枚も必要になりかねないもののはずなのにだ。
だがアニータがそれを現地の値段で売ることができるのは、この箱のお陰である。
ミミックの箱の中には、彼女達が作り出した異次元にも近い空間が広がっている。
時間という概念は
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