前か後ろか

かっぽかっぽ……蹄がコンクリートを打つ音が響く。だが、その音はどこか刺々しい。
音を立てている張本人、ケンタウロスの速水 風歌は苛立っていた。
同じ硬式テニス部の後輩である高橋 賢吾と付き合い始めてもう6ヶ月になる……そろそろ、自分の身体を許してもいいのではないかと彼女は考えている。だが、彼がセックスを誘う様子はない。
もともと押しは強い人ではないから覚悟はしていた。告白も、キスも、全て風歌の方からであった。

『だが、最後の一線まで女の私からさせるつもりか!!』

かつんっ! 苛立ちをあらわに風歌はコンクリートを蹴る。その音にビクッとした者が横にいた。

「あ、あのー……先輩、怒っていますか?」

おどおどと風歌に声をかけてくる少年の声……風歌の苛立ちの種、そして愛おしくて仕方がない男、賢吾だ。高校からの帰り道。二人は並んで歩いている。

「怒ってなどいない」

苛立っているのに、つい風歌は裏返しの言葉を言う。もちろん、賢吾は言葉の通りには受け止めない。その顔が見る見る間に曇る。

『ああ、そんな顔をするな! 私が悪いことをしたような気分になる! それでいていじめたくなる! 滅茶苦茶にしたくなる!』

発情期が近づいていることもあり、風歌は熱が上る顔を見られないように、ツンと横を向いた。

「でも……」
「怒っていないったら怒っていない!」

口先だけだ。もう口調までが苛立ったものになっている。本当は怒っているのに、本当は彼を困らせたくないのに、本当は彼を滅茶苦茶にしたいし逆に彼に滅茶苦茶にされたいのに、なんでそんな言葉を吐いてしまうのか……
そんな自分が情けなくなり、さらに苛立ちが掻き立てられる。自分の苛立ちを振り払うかのように風歌は足を速めた。

「ちょ、先輩……!」

慌ててちょこちょこと彼が小走りになってついてくる。スピードを上げて振り切っても、風歌は良かったのだが、それをしたところで何も解決しない。むしろ、あとで賢吾に悪いことをしてしまったと、家に帰ってから後悔に苛まれる自分が想像できた。

「ならば言う」

不安げにまた賢吾が声をあげたので、風歌は自分の気持ちを伝えようと賢吾の方を振り向いた。
だが、いざ自分がセックスしたいと言おうとすると、言葉に詰まってしまう。
困った彼女は……

「とりあえず、私の家に来い!!」

と、強引に彼を自分の家に引っ張ったのだった。







「みんな、みんなお前が悪いんだぞ!」
「うぇー!? ちょ、ちょ先輩!?」

家につき、自分の部屋に入るなり風歌はわめき散らす。当然、彼女の行動と言葉に賢吾はあわてふためいた。その様子を見て風歌は考える。
『これはチャンスかもしれない……』
相手が動揺している時なら、自分が恥ずかしいことを言ってもある程度は忘れてくれるかもしれない。風歌はわたわたしている賢吾の前でそっと大きく息を吸い、一息に言った。

「私が発情しているのに、ちっとも誘ってくれない、お前が悪いんだ!」
「うっ!? あ……それは……」

風歌の言葉にうつむいてしまう。どうやら今言った風歌の言葉は完全に認識してしまったようだ。そのことに風歌の心の中に、言葉とともに吐き出したはずの羞恥心が一気に戻ってきて膨れ上がる。
だがそれと同時に疑問が沸き起こり、そしてそれは一気に怒りも混ざった。うつむいている賢吾に風歌は畳み掛けて訊ねる。

「なぜ、なぜだ!? 私に魅力がないからか!?」
「そうじゃないです! ただ……」

弾かれたように彼は言ったが、すぐに言葉が小さくなる。風歌は黙って続きを促す。
彼が何か勇気を振り絞って言おうとしている。それをじれったいと叫んで遮ってしまうほど、彼女は愚かではなかった。もじもじしていた賢吾であったが、やがて蚊の泣くような小さな声で答えた。

「先輩にそんなことをしていいのか、やっぱり自信がなかったし、それに……」
「それに?」

この理由は予想どおりだ。だが、続きがあるとは思っていなかった。そしてその答えも意外だった。

「ケンタウロス種の身体って、どうなっているか分からないし……」

彼の顔が真っ赤だ。おそらく、女性器がどっちに付いているかわからないのだろう。

『そうだったのか……』

彼の告白を聞いて風歌は納得した。それが理由のひとつだったのなら、話は早い。無言で風歌は制服を脱ぎ始めた。
ブレザーのボタンを外して肩から滑り落としてベッドに放り投げる。そして震える手でブラウスのボタンを一つずつ外していった。

「ちょ、先輩!?」

風歌の行動に、そして今まで見たことがなかった彼女の半裸の姿に賢吾が顔を真っ赤にして驚いている。顔を覆っているが、その目はしっかりと風歌の、ブラに包まれている豊満な胸に釘付けに
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